小さく声をたて笑っている美音。
見下ろす横顔には笑窪が浮かんでいた。
その窪みには不思議な力が秘められてるんだな、きっと。
即物的な思考なんてたやすく昇華させるような。
でも強い魔力。
一度惹きつけられたら離れられない。
見つめたら見つめ返してくれる、美音のそんな当たり前も手に入れて、俺はどんどん欲深くなる。
「楽しい?美音。今」
「幸せ」
……おお。
そうきたか。
そうくるか。
しあわせ、ってたった4文字で。
思惑のはるか斜め上をいく素直な言葉で。
俺をどうしたいんだ、美音。
「夢オチかな、明日死んじゃうのかな、って本当に思ってしまう。
信じられなくて。
……相澤くんは?」
「ん?」
「……楽しい?
その…私なんかと居て…」
「…あ」
「え?」
一旦、緩み元の位置に戻っていた俺の口角はまたみるみるうちに上がっていく。
俺、使うな、って言ったよな?
“なんか”なんて。
無意識だった?美音。
そんで、ちゃあんと言ったよな?
「うわー、俺、今 超楽しい。
言ったもんな?する、って」
「え?な、に…」
「すっげえ濃いベロチュー」
俺の言葉を正しく理解した途端、距離を取ろうとした美音の腕を掴まえる。
胸元に引き寄せて覗き込んだ瞳はこぼれ落ちそうなくらい見開かれていて、俺の背筋に快感が疼いた。
「えっ、ちょ、っちょっと!待って!
待って待って待って!」
「待たねえ。てか待てねえ」
あ、眼鏡 邪魔だな。
てか出来んのかな、俺。
見えるか?この暗がりで美音の唇。
すっかりやる気だけど。
「し、したことないっ、から!私っ!
そのっ…ベロ…あああ、考え直して!相澤くん!」
「…ベロチュー、は。したことない?」
……ちょっと、待てよ。
何となく、違和感。
『ベロチューはしたことない』ってのは。
けれどイコール『普通のキスはしたことあるよ』ってこと?
怒気を孕んでいく俺の表情を間近で見つめている美音の顔に、失言だったと浮かび上がってくるようだ。
「…キス、したことあんの?
美音、つき合ったことないっつってなかった?
いつ?誰と?どこで?どんな風に?何回くらい?」
「…っ、違っ…相澤くん…!」
ヤメロ、と頭の中では声が響く。
これ以上はきっと美音が泣いてしまう。
今でさえ泣きそうなのに。
懸命にかぶりを振って 違う、って何か言いたげなのに。
それでも口を吐いて出る醜い言葉を止められない。
「渡部?それとも違うヤツ?
お前、俺のことずっと好きだったんじゃねえの?
俺とは無理だとか言うくせに他のヤツとは出来んの?」
「…っ、出来ないよっ!
したくて、した訳じゃ、ないもんっ…!」
美音の細い肩を掴んでいた俺の腕はいつしか力が籠められていて、制服のブレザーに歪なシワが寄っている。
けれど。
俺の腕へ縋るように伸ばされた美音の小さな指にも力が籠められていて、きつく一層白く色が変わっていて。
痛いんじゃないか、と見つめる。
でも、俺も痛い。
どこもかしこも分からないくらい。
ままならない。
こんな自分は、初めてだ。
見下ろす横顔には笑窪が浮かんでいた。
その窪みには不思議な力が秘められてるんだな、きっと。
即物的な思考なんてたやすく昇華させるような。
でも強い魔力。
一度惹きつけられたら離れられない。
見つめたら見つめ返してくれる、美音のそんな当たり前も手に入れて、俺はどんどん欲深くなる。
「楽しい?美音。今」
「幸せ」
……おお。
そうきたか。
そうくるか。
しあわせ、ってたった4文字で。
思惑のはるか斜め上をいく素直な言葉で。
俺をどうしたいんだ、美音。
「夢オチかな、明日死んじゃうのかな、って本当に思ってしまう。
信じられなくて。
……相澤くんは?」
「ん?」
「……楽しい?
その…私なんかと居て…」
「…あ」
「え?」
一旦、緩み元の位置に戻っていた俺の口角はまたみるみるうちに上がっていく。
俺、使うな、って言ったよな?
“なんか”なんて。
無意識だった?美音。
そんで、ちゃあんと言ったよな?
「うわー、俺、今 超楽しい。
言ったもんな?する、って」
「え?な、に…」
「すっげえ濃いベロチュー」
俺の言葉を正しく理解した途端、距離を取ろうとした美音の腕を掴まえる。
胸元に引き寄せて覗き込んだ瞳はこぼれ落ちそうなくらい見開かれていて、俺の背筋に快感が疼いた。
「えっ、ちょ、っちょっと!待って!
待って待って待って!」
「待たねえ。てか待てねえ」
あ、眼鏡 邪魔だな。
てか出来んのかな、俺。
見えるか?この暗がりで美音の唇。
すっかりやる気だけど。
「し、したことないっ、から!私っ!
そのっ…ベロ…あああ、考え直して!相澤くん!」
「…ベロチュー、は。したことない?」
……ちょっと、待てよ。
何となく、違和感。
『ベロチューはしたことない』ってのは。
けれどイコール『普通のキスはしたことあるよ』ってこと?
怒気を孕んでいく俺の表情を間近で見つめている美音の顔に、失言だったと浮かび上がってくるようだ。
「…キス、したことあんの?
美音、つき合ったことないっつってなかった?
いつ?誰と?どこで?どんな風に?何回くらい?」
「…っ、違っ…相澤くん…!」
ヤメロ、と頭の中では声が響く。
これ以上はきっと美音が泣いてしまう。
今でさえ泣きそうなのに。
懸命にかぶりを振って 違う、って何か言いたげなのに。
それでも口を吐いて出る醜い言葉を止められない。
「渡部?それとも違うヤツ?
お前、俺のことずっと好きだったんじゃねえの?
俺とは無理だとか言うくせに他のヤツとは出来んの?」
「…っ、出来ないよっ!
したくて、した訳じゃ、ないもんっ…!」
美音の細い肩を掴んでいた俺の腕はいつしか力が籠められていて、制服のブレザーに歪なシワが寄っている。
けれど。
俺の腕へ縋るように伸ばされた美音の小さな指にも力が籠められていて、きつく一層白く色が変わっていて。
痛いんじゃないか、と見つめる。
でも、俺も痛い。
どこもかしこも分からないくらい。
ままならない。
こんな自分は、初めてだ。
