クラシック




「かなちゃーん!おは…っ、ぐ」

「誰がかなちゃん、だ。てめえ。
か な る、くん、だろ?」

「…暴力は良くないよ、奏成くん」



じゃあ初めからちゃんと呼べ、と命じれば鳩尾をさすりながらむくれた顔を見せる。
俺の席に我が物顔で居座っていた内田 翔太は立ち上がり、それでも ねえ、と会話を続けた。
メゲないヤツ。



「奏成さあ。昨日 誰と帰った?」

「……は。何だ、いきなり」



別に隠す必要はないし焦る必要もない。
それでも何となく心拍数は上がる。
勿論、気取られるような真似はしないけど。



「あれ?
みおちゃん、そのせいで呼び出されたのかと思った」

「…待て待て。意味が分からん。
まずもってみおちゃん、って誰だ?」



わ、冷たい。と目を細めながら翔太は俺の隣の席を指す。
机の横にカバンは掛けてあるものの持ち主の姿は見えない。
相川…は。
みお、って名前だったのか。



「美しい音、って書いて美音ちゃん。
知らんかった?無関心だなー、生徒会長」

「……」

「でも一緒に帰ったんだよね?昨日」

「…ああ」



そこまでの仲じゃないんだ?奏ちゃん、と軽やかに笑う翔太の唇をつねり上げ一睨みすると、涙目で肩をすくめる。
両の掌を俺へと向け、降参のポーズ。



「…お前、何つった?呼び出されたの何のと」

「ああほら!ユキちゃん達が屋上に連れて行っ…っ、たあっ!」

「何で止めねーんだ!ボケ!男だろうが!」

「オレ、奏ちゃんみたいに強くねーもん!
女の子3人集まれば男より強いよ!」



突然踏みつけられたつま先を痛いとさする翔太を背に 俺は舌打ちしながら教室を出る。



……女ってのは。
面倒くせえ。
敵に回しすぎるのもやりづれーけど。
味方にしすぎんのも勘違いを生みすぎる。



ああ、とりあえず。
平常心と無表情。いつもの感じ。
屋上に着くまで、取り戻せ、俺。
そんな風に自身へ命じながら階段を上りかけたところで。
佐野先生から呼び止められた。



「相澤、相川のカバン、保健室へ持って行ってくれないか」

「……はい」



理由を訊こうとしたが迷った。
重く大きなネコはきちんと飼いならしているし。
柔らかく万人受けの良い笑顔を貼りつかせるのはお手の物だが。
特定の誰かへ関心を見せたことはなかったから。
まあ、訊く前にゲロってくれたけど。感謝、佐野先生。



「女の子同士でケンカだなんてなあ…まったく。
ああ、今日はそのまま早退するように言っといてくれるか」



俺は促されるままに佐野先生と一緒に教室へ足を踏み入れ、相川の机からカバンを手に取ると起立ー、という日直の気だるい声を背に保健室へ向かった。



……ケンカ。ケンカねえ。
呼び出された結果がケンカに落ち着いたのか?
鈍くさそうなのに。
似合わないし。



(手、とか…怪我したら)



どうすんだ、アイツ。
コンクール出場どころじゃねえだろ。
リスク管理がまるでなってない。
とはいえ。



ユキ、と翔太が挙げていた名前は生徒会のうちの誰だった?
書記か、会計か。
顔を思い出そうとするけれどままならない。
ほらな。
俺は基本的に無関心なんだよ、他人に。



だから、相川へも。
同じく、だと。
思うじゃないか。