クラシック




「え…なっ、え?」

「…お前ね。
“え”と“な”だけじゃ会話は成立しねえよ」

「あ、ああ、ごめ…」



紙袋を差し出した瞬間から美音の歩みは止まったままだ。
真正面から見据えればふっくらと柔らかそうな目の縁あたりまで真っ赤に染まっている。
喉をコクリと鳴らしたまま、次の言葉も次の動作も始まらない美音の空いた手を取り細い紐を握らせた。



「…こんな…いただいて、ばっかり…」

「いいんだよ。
俺が勝手にやってんだから」



そう。
俺のエゴ。独占欲。
だから美音は気にしなくていいんだ。
俺があげたモノで美音の気持ち全部を絡め捕れるとは思ってないけど。
それでもたぶん、想いの差を。
埋めたいと思ってる俺の浅はかさの表れなんだよ。



「…ありがとう…あの。
ごめんなさい、ありがとう以外の言葉が…」

「ぶ。間違ってねえだろ」



ふ、と頬が緩んだ瞬間、開けてみていい?なんつって笑顔で街灯の下へ走り寄る美音の姿にさらに破顔しそうだ。
…いやまあ。
伝わんねえだろうけどな。
俺の表情筋の変化はまだまだ乏しい。



小さな箱を小さな紙袋から取り出し、そのままリボンへ手をかけようとしていたけれど、さすがにフカフカの手袋をしたままでは細かな作業が出来なかったらしい。
毛糸の下から現れた白く細い指たちの動きはとても丁寧で繊細だ。



「…わ!うわあ…綺麗…!」



…いやー。
そうやってキーホルダーを手に街灯の明るさにかざして一つ一つのチャーム(と言うらしい。店員の力説によると)を愛おしそうに触れている美音の方がよほど綺麗だと。



俺は何の衒いもなくそう思った。




あ、と思わず声が出た。
俺の分もまだ袋に入れたままだった。
そう言いながら小箱を取り出し美音を見つめると、同じように熱い視線が返ってくる。
お揃い?と。
熱に浮かされたようなふんわりした笑顔と口調がまた殺人級だな。



「あ。何?
お揃いとかゲンナリくる人?」

「…あ、相澤くん…!私…死ぬのかなあ…」

「え?!何か持病あるのか、美音?!」



何なんだよ?!不吉な言葉 飛び出したぞ今!
ガッシリと細い肩を掴んで探るような視線を間近で美音へ這わせるけれど。
フルフルとかぶりを振るばかりでハッキリしない。



「…そ、走馬灯が…」

「何だよ?具合悪いのか?美音!
ハッキリしろよ!どうした?!」

「走馬灯、来た……私。
こんな、良いことばっかり…おかしい…」

「……何の話を…って!
ちょ、おま、なんで泣くわけ?!」



あーあ、もう。
俺、何度泣かせてんの?美音のこと。
いやでも泣かれるとは思ってなかったんだけど、今回。
うー、だって、と。
鼻をすすりながらそれでも懸命に理由を話そうとする美音。
俺の手、冷たくないか?
ああでも、美音のほっぺたが熱すぎるから丁度良いか。
幾筋かこぼれ落ちた涙の痕をそっと親指で拭った。



「…あ、相澤くんが、彼氏で…プレゼントとかっ…う、嬉しくてっ…!
ま、マフラー、だって、夢みたい…、
もう、いっぱいいっぱいなの、に…お、お揃い…っ」

「うんうん。よしよし」



美音、ね。
分かってねえだろうけど。
お前まったくの無意識だろうけど。
そんなん、俺のことどれだけ好きか、って路上で大告白してくれちゃってるようなもんだぞ。
頭を撫でくり回す俺の手は、俺のこっ恥ずかしさを隠そうと忙しなく動く。



「…こん、ないっぺんに…っ、怖…っわ、私…明日、死んじゃう、かも…」

「死なせるか、バーカ」



俺は泣きじゃくる美音を腕の中へ閉じ込める。
人気の少ない通りで良かった。
小さな頭に顎を乗せ、死なせねえよ、と繰り返した。