翔太と別れ9時半ちょうどにコンビニの裏手に着いた。
数時間前に美音が吸い込まれていった灰色のドアを見据える。
…吸い込まれたっつーか。
アイツ、渡部の野郎がね。
強引に連れてったな、クソ。
なんて考えごとをしていたら5分もしないうちにドアがガチャリと開いた。
「お疲れ様でした」
顔と身体はまだ店内へ向けて律儀に挨拶している美音。
クルリと振り向き外灯に照らし出された俺を見つけると 相澤くん、と駆け寄ってきた。
…うん、お前。
その笑窪は超いいんだけど。
相澤くん、っつーのがね、何とかならない?
「待って!美音ちゃん!」
うっすら浮かんでいたと思われる俺の口元の笑みは瞬時に消え去る。
渡部、しつこい男は嫌がられるぞ。
美音はと灯りの元 見下ろせば、至極不思議そうな表情だ。
それを目にした俺は分かりやすく安堵した。
美音はきっと渡部の今日も送るよ、なんつー申し出をきちんと断ったんだな。
なのにどうして?の表情。
「…その、大丈夫?
僕が、送っていかなくても」
大慌てで追いかけてきたんだろう、軽く息が上がっている渡部。
その縋るような瞳を見ればほんの少し気の毒にも思う。
でも、俺は知ってる。
その憐みの感情は美音の気持ちは俺にあると優越感に浸っているからこそ湧き上がるものだ。
…ああ、なんか。
また別の意味でヤな感じになってね?俺。
「はい。大丈夫ですよ?
相澤くん、私の家 知ってますから」
…んー、美音。
きっと、ちょっと、違うな。
渡部が訊きたかった“大丈夫?”ってのは。
僕は送りオオカミにはならないけどその男は人畜無害なの?的な。
そういう問いかけだったと思うぞ。
天然か、計算か、小悪魔か、美音。
「…その、本当に。
2人はつき合って…」
「…あ。やっぱり似合いませんか?」
渡部の渾身の質問に苦笑しながら至って普通に応えている美音は。
鈍感なんだな…。
うん。鈍感決定。
渡部が向ける気持ちに微塵も気づいてないんだろう。
それはありがたいやらホッとしたやら複雑な気分。
…それにしても、お前さ。
やっぱり似合わない、ってどういう意味?
「や、似合うとか…そんなんじゃなくて…。
信じられないというか、信じたくないというか…」
「?え、と。
私も信じられないんですけど…」
「あ、信じてないの?彼氏のこと」
「オイ、ちょい待て!」
俺の目の前で繰り広げられる奇妙な会話。
どんな方向に進んでいくのかと思って聞いてりゃトンチンカンな展開だな。
こんな場には不慣れなんだ、勘弁してくれ。
「渡部さん…大学生ですか?」
「…そうだけど」
「…俺らガキですけど真剣につき合ってますんで。
ご心配には及びませんよ。
今後は俺が送っていきますし」
沈黙を破った俺を見つめる美音に笑みを返す。
一方で眉をひそめ明らかに不穏な色を俺へと遠慮なく投げつけてくる渡部との距離を一歩縮めた。
「あれですよね?
美音のことはお兄ちゃんが妹を可愛がるみたいなお気持ちで…いや、分かりますよ?
庇護欲かきたてられますもんね?」
