クラシック

俺の念が通じたのか、美音は渡部の隣にさほど長い時間引き留められることもなく、ホウキとチリトリを持って店の外へ出て来た。
ホッとして、でも眉間に深いシワが寄る。
寒そうだ、美音。
いつになく首元スカスカしてるし。
バイト中だ、マフラーなんてできねえよな。



「ぶ。かなちゃん、百面相ー。
何、考えてんの?」

「…早く終わんねえかな。
てか、バイト辞めさせたい。
カッコ悪ぃよな、俺」



ふ、と翔太を取り巻く空気が綻んだ瞬間を右隣に感じた。
からかうでもなく優しげな笑いを含んだ翔太の声は、そんなことないよ、と。
しっかり伝えてきた。



「いつもの…すかしてて澄ましてる奏成より。
よっぽど良い。
人間くさくて、オレは好き」



流れる静かな時間と空間に翔太の言葉は綺麗に溶ける。
冗談、じゃないらしい。
それくらいの空気は読める。
ふてくされて頬杖をついたままの姿勢でチラリと横目に翔太を捕らえた。



「…どれだけヤな感じだったんだ、俺って」



自嘲し緩んだ俺の口元を覗き込みながら翔太は、本当にね、と否定しない。
持ち上げられてんだか突き落とされてんだか。
仄かに残るのであろう翔太の美音に対する特別な感情に苛立たないこともないし。



「何度も思ってた。
美音ちゃん、奏成よりオレにしときなよー、とか。
奏成のどこがいいんだよ?とか。
…それでも。いや、それとも?」



美音ちゃんの目には、違って見えたのかな。



…そうやってこそばゆいことを言ってくれる。
だから“美音ちゃん”には目を瞑ることにした。一時的に。



美音。
俺のこと、ずっとどんな風に見てくれてたんだろう。
訊きたいことも知りたいこともたくさんありすぎて、時間が惜しい。
なのに今、こうしてぼんやりしているだけの自分がもどかしい。



そうやって生きてきたんだから、無愛想で無関心で周囲にも自身にもさほど興味なく重いネコをかぶってた過去の俺は変えようがない。
後悔しても詮無いことだけど。
それでもやっぱりちょっとだけ恨めしかった。



そうして眺めている間にもう一人店員の数が増え、夕方の慌ただしい時間帯へと突入したようだ。
ひっきりなしに駐車場へ車が停まっては出て行き、自動ドアが開いては閉じる。
学校へは内緒だからあまりレジへは立たない、と言っていた美音だったけどそうも言ってられないんだろうな。
3つあるうちの1つで応対している姿が見て取れた。



「ねー、かなちゃん。
メシ食いに行こうよ」

「んー、そうだな」



何はしてなくとも健康な男子高校生だ、腹は減る。
忙しそうだから美音がちょっかい出される事もない…だろう(と、思い込みたい)。
ここからあまり離れたくないと言うと翔太はグヘ、と奇妙な笑顔を作り、見渡せる範囲内にあるファミレスを指した。
あ、家にメールしとかなきゃ。






「…クリスマス、近いねえ」

「何だよ、藪から棒に」



ハンバーグステーキ定食を待ってる間、唐突に翔太はそんなことを言い出した。
話の流れが何となくお袋と同じ方向性を示しているような。
ニヤリと吊り上った口角が怖いぞ、翔太。



「…何するの?」

「何もしねえよ。
美音、ずっとバイトだっつってたし」



23日以外はな、と。
心の中だけでつけ足した。
ああでも、ちょっと待て。
クリスマスって25日だよな、そもそも。
美音、3連休はずっとバイトだと言ってたけど。
25日は?



「ちぇー、つまんねー。
見たことないかなちゃんがちょいちょい見えてきたかと思ったのに。
僕がキミのサンタだよー、とか急にデレたりしないかあ」

「…キモ。キャラじゃねえし」