クラシック






「かなちゃん、マジで何してんの?」



一人カフェラテのLサイズを手に窓際の席でボンヤリしていると、頭に翔太の声が降ってきた。
今日もオシャレ小僧だな。
そのキャラクターのトレーナーが嫌味なく似合う高2男子はお前くらいだぞ。



「…あそこ。
美音がバイトしてる」



俺はガラス窓越しにコンビニを指差す。
しばらく目を凝らしていた翔太は、本当だ、と小さく呟いた。



「……ビックリ。
オレ、かなちゃんよか美音ちゃん情報 把握してると思ってたのに」



きっと一昨日まではそうだった。
そう思えば頬が苦々しく歪む。
マグカップを口元へ運ぶ俺につられて翔太が手にしたカップの中はどう見てもコーヒーの類ではない。
ロイヤルミルクティー、って。
ここコーヒーショップだっつーの。



「学校には内緒、な」

「分かってるよー。
で、なんでこんなストーカーっぽいことやってんの?」



俺はノロノロと翔太の顔を見つめた。
ストーカーっぽい?
何?俺、そんな風に見えんの?



「尾けてきたんじゃないの?」

「んなワケあるか!
一緒にここまで来たんだよ、送ってきた」

「……え、じゃあ今これ、何してんの?」

「……終わるまで、待ってんだけど」



翔太は最近目にした覚えがないほど瞠目し、その双眸にチラチラと戸惑いの色を見せた。
しばらく声もなくそうしていたかと思うと、俺の額へ手を当て自分の体温と比較している。
……テメ、失礼極まりないな!
熱なんかねえ、っつの!



「……かなちゃん、本物?」

「シバかれたいのか」

「あと、どれくらい?」

「4時間と15分」

「……オレ、帰ってもい?」

「ナンパとか暴言吐いた罰。
つき合え、って」



ぶー、とワケが分からない擬音を漏らすと翔太は諦めた様子でまたカップに口を付ける。
ニンマリ笑いながらコンビニへ目を向けると、渡部らしき人物が美音へ近づく様が視界へ入ってきた。



窓外へ向けて置かれたカウンター席。
伸ばした脚は地に着かないスツールに腰かけている。
急に身を乗り出したせいかキシ、といびつな音を立てどこかの部品が悲鳴を上げた。



「…かなちゃん。
窓、突き破りそうだよ」



隣に座る翔太の長い指が俺のセーターをクイ、と引く。
それでも上半身は前のめりになったままだ。
あああ、何だよ!アイツ!
美音の頭、撫でんな!
雑誌、ちゃっちゃと並べ終えろって!
店長!あんなヤツに給料払わなくていいぞ!サボってんぞ!
美音、寒いだろうけど店の外の掃除とかしろ!
とにかく離れろ!



「えー、アイツ何?
なんか馴れ馴れしくない?」



俺の視線の行方を追っていた翔太も、渡部の存在と行動の意図に気づいたらしい。
馴れ馴れしいよな、うん。
お前もそう思うよな、俺だけが過剰に反応してるわけじゃないよな。



「…渡部、っていうらしい。アイツ。
美音のこと、バイト終わりに家まで送って行ってんだと」

「…それで、ヤキモチ?
んで、待ってんの?」

「…そんなんじゃねえよ」



言って、それだけじゃねえよ、ともつけ足した。
そう、渡部の件は後付けで。
元々、1日が終わるまでにもっと一緒にいたいと思ったからだ。
素直にするりと口をついた言葉達は、また翔太の驚きを買った。



「…ベタ惚れですなあ」

「…ベタ惚れ、なんだろなあ」