クラシック

“おひとりさま”でも立派に行動できるけど。
それでも横断歩道を渡りきったところでスマホのディスプレイが着信を告げた時には、正直ホッとした。



「翔太、このあとヒマだよな?」

《何、その決めつけ?
超多忙スケジュールの合間を縫って電話してあげてるっつーのに》



冗談とも事実とも判断しがたい声音に落胆しながら用件を問うと、今どこ?と居場所を問い返される。
コーヒーショップの店名を告げると沈黙が返ってきた。



「…翔太?」

《…え、そんなとこで何してんの?
てっきり家で最新巻読み終わった頃かと思ったのに》



言われて、ああそうだった、と思い出した。
今日は翔太と共通で好きな漫画のコミックス最新巻発売日だった。
俺は今日も早退したんだ、もう読み終わった頃かと翔太は借りに来るつもりでいたらしい。



「諸事情により購入には至っておりません、あしからず」

《何だよ珍しー、あ、手袋見つからなかったの?》

「いや、無事に見つかったけど」



店先の通路で他人様の邪魔にならないよう俺は通話しているけれど、目は恐ろしいくらい向かいのコンビニへ据え置いたままだ。
視力、もちっと良ければ美音の表情まではっきり見えたんだろうか。
雰囲気が何か違うと感じたのはユニフォーム姿のせいかと思ったけど。
フワフワの綺麗な髪の毛を後ろで結んでいるからだ。



《…ゃん、かなちゃん!》

「ん?ああ、悪い。聞いてなかった」

《えー、ひど!
あとどれくらいで家に帰るのかって》

「ああ、5時間は帰らねえぞ」

《5時間?!何なの、何してんの?!
美音ちゃんいるのにナンパとかじゃないよね?!》

「…テメ。
許しがたい暴言だな。
罰としてつき合え。出て来い今すぐ」



えええー、外寒いからヤダよ!とゴネる翔太を無視して 来いよ、と念を押し勝手に通話を終了した。
店の外に設置されたごみ箱のごみを回収するべく自動ドアから出てきた美音の姿をよくよく見たくて。



「……ちっせえなー、美音」



半透明のビニール袋に引きずられてるように見えるんだけど。
『ビン・カン』だの『ペットボトル』だの、それでも手際良く分別し、まとめていく。
こっち、見ねえかな。



…いやでも。
俺の姿が目に入ったら気にして申し訳なさがるか。
迎えに来るとは言ったけど、近くでずっと待つとは伝えなかったし。
いや、そんなの恩着せがましすぎるにもほどがあるけど。



真面目だし遠慮しいの美音。
涙目でごめんなさいと謝り倒されて気の毒がられるのは本意じゃない。
そうなったら、何つーか。
“次”が無い気がした。



「…んなことさせねえけど」



カッコ悪ぃな、俺。
早く来ねえかな、翔太。