「…そう、ですね。
あの…じゃあ、相澤くん…」
言葉の前半部分は渡部へ向けて後半部分は俺へ向けて。
美音の口からこぼれ落ちた2度目のじゃあ、はいよいよタイムリミットを告げて何とも切ないけど。
…迎えに来れば、いいだけ。
そうしたらまた一緒に辿れる帰り道がある。
俺は力を籠めて一旦握り直してから、手を離した。
「送って行くからな、絶対。
一人で先に帰んなよ」
「大丈夫だよ、僕が送って行くし。
いつも、そうしてるから」
…アホか、コイツ。
全然 大丈夫じゃねーだろ。
しかも、何?その言い方。
牽制っつーか、挑発っつーか。
上等だよ。売られたケンカは買ってやる。
ここでの暴力沙汰は美音に迷惑がかかると判断できるくらいの理性は残ってる。
それでも、翔太へ感じた黒さよりも醜く蠢く感情は俺に余裕なんて持たせてくれないけど。
「…大事な、彼女なんで。
俺が家まで送ります」
ご心配なく、と目を逸らさずに言いきった。
美音の背中を追いたてながら店内へ入ろうとする渡部(金輪際、呼び捨て決定)の背が俺より少し低いことに鼻が鳴る。
…クッソ。意外と小せえな、俺。
「…彼女?…ふーん」
何か言いたげに相澤くん、と俺の名を呼んだ美音を急かし、2人の背中は安っぽいグレーのドアの向こうへと消えて行った。
「……チ」
…舌打ちの一つくらい許してくれ、神様。
俺、それほど低い沸点じゃないんだけど。
それでも、煮えくり返ってる。
ハラワタが。
ハラワタって腸だな。
ああクソ、さっきまではもっと違う場所の何かがグルグルと駆け回っていて。
気持ち良かったのに。
「……はあー、ムカつく。
何なんだ、アイツ」
口に出したら幾分和らぐかと思ったけど。
そんなことねえな。
ここに立っていても仕方ない。
変質者だと通報されたらたまんねえし。
美音を吸い込んだドアの奥へ向けて一瞥すると、コンビニの正面へ歩を進める。
「……5時間、何するよ」
何だって俺は。
こんなにムカついてるんだろう。
冬の冷たい空気に白く浮かぶ吐く息はただの呼吸じゃなく。
俺の怒りを現してるんだ。
目について、さらに眉根が寄る。
あまりにも小さな、自分の器に。
店内をチラ、と覗けば制服姿の美音が棚にペットボトルを並べていた。
レジの前に立つ渡部が何事か話しかけてやがる。
仕事しろ、働けよ。
ああ俺、5時間もこんなの見続けてたら毛細血管まで細切れになってしまうかも。
県道を1本挟んだ真向かいに位置するコーヒーショップ。
あそこで時間潰そう。
読みかけの本、持ってくればよかった。
俺はスマホを片手でいじりながら、横断歩道を渡り始めた。
