クラシック

夢みたいだもん、と。
美音は言った。
違和感あるもん、とも。



「……相澤くんが、彼氏、とか。
変だよ…つり合わない」

「くだらねえこと言ってんなよ、バカ。
明日、学校行きゃあ分かる」



教室内での爆弾発言と。
山上への仕打ちは尾ひれがどれだけでも付いて。
まことしやかに2学年中を駆け巡り俺の既存イメージを覆していくだろう。
そんで浸透していけばいい。
俺が美音をどう思ってるか、って。



「……勘違い、するし。
こんな、いろいろ。
優しく…してもらったら」



出来る限り、と思って。
ゆっくりゆっくり歩いてきたけど。
それでももう、北中を通り過ぎた。
美音のバイト先はすぐそこだ。
俺はずっと傍にくっつけときたい美音を離さなきゃならない。



「勘違いじゃねえよ。自覚しろ。
俺、すっげえ好きだぞ、お前のこと」

「…え、あ…」

「言っとくけど全っ然平気じゃないからな俺、今。
スケルトン仕様だったら血液逆流して沸騰してんの見えるぞ、体内」



ああ、マフラーでちょっと口元を覆ってて良かった。
だから抵抗なく言えるのか。
でも横へ並んでのこのコクリって、ちょっとヘタレな気もする。
目、合わせてないし。
…え、ちょっと待て。
美音の気配が消えたんだけど。



「……どうしよう」

「美音?」

「……涙、出そう…」



バカ、と口の端を緩めて俺は立ちすくんだままの美音の手を取る。
手袋越しだけど握り返してくるのが分かった。
ああもう、コイツ。
あのコンビニ。
急に爆発したりしねえかな。





建物の裏手には従業員用と見られる通用口があった。
手を離して。
美音と離れないといけない。
じゃあ、と口にしたものの美音から緩められることのない繋がった部分。
俺はそこに視線を落とし、どうしたら1日が終わるまでにあとほんの僅かでも一緒にいられるかと思考を巡らせた。



「終わるの、何時?」

「…?9時半…」

「じゃあ、迎えに来るから」

「え」「あれ?美音ちゃん?」



突然、背後から浴びせられた馴れ馴れしい呼び方に俺は一瞬で不機嫌さを全身に纏い振り向いた。
…男の、声だし。
美音より先に俺と目が合うと見開いた瞳は驚きを隠せないでいる。
しかも、ガン見。
なかなか離せないでいる俺と美音の手を、ね。
何か念じてんだろ、テメ。



「…あ、渡部さん。
おはようございます」



夕刻だろうと始業にあたってはきっとおはようございます、が通例なんだろう。
美音がいたって普通に、いたって変わらぬ風で挨拶する様を俺は妙な優越感で見下ろしている。
…だって。この渡部ってヤツは。
秋波、ってのは意外と敏感に嗅ぎとれるもんだな。



「…早く、入らないと。
店長に怒られちゃうよ?」



焼き切るように見つめられていた視線は、手の位置から俺へと据えられる。
声は美音へと優しくかけてるっつーのに。
目が、笑ってねえし。
ああもう、お前のせいで真面目な美音の手がピクリと小さく動いただろ。