座り込んだら美音の顔が見えない。
ソファーに横たわれば、見える位置。
俺は身体を伸ばし片手は頭の下へ、片手で本を持ち顔の前へ掲げると美音が奏でる美しい音色に包まれながら、静かに文字を追った。
答えてもらったところで絶対 分かんないんだけど。
それでも。
何て曲 練習してんだ?と問うた。
予選では3曲弾かなくちゃいけなくて。
バッハの平均律クラヴィーア曲集第2巻から1曲と。
ショパンの24の前奏曲から1曲。
あと、ドビュッシーの前奏曲集から…
いつの間に引きずり込まれたのか。
俺は眠りの世界をたゆたっていた。
深く暗い色をした、空と大地の境目も分からない荒涼とした土地に。
美音が一人、佇んでいる。
その細く小さな身体にこれでもかと吹きつけている荒々しい風。
不気味な黒さとともに美音が攫われそうだ。
待て。
連れて行くな。
「…み、お…」
ああ、でも。
雲が急激に流れ空は明るくなる。
美音は囁くように流れる小川の傍に立ち。
俺へ優美な笑顔を見せた。
かと思えば。
俺は大聖堂に居て。
パイプオルガンに囲まれている。
音源はピアノのはずなのに。
バッハだな、これ。
それだけは何となく分かる。
カシャ、と機械的な音がしたような気がした。
かなくん?と小さな声が聞こえたような気もした。
頬に触れられたような気も。
夢か。
夢だったか。
相澤くん、と呼ばれた気落ちが俺に現実味を与えた。
「もう、行くね」
「…え」
壁の時計を見上げれば4時。
俺、一体どれだけ寝てたんだ。
なんで、と起き上がりながら喉から絞り出した声はひどく掠れた。
胸の上から本がずり落ちそうになる。
「…ああ。バイトだったな」
うん、とコクリ頷く美音。
送ってく、と立ち上がると案の定、大丈夫、と遠慮された。
「…お前ね。
いつになったら、奏くんありがとう大好き、って。
言えるようになんの?」
「…な、んか…レベル上がって…」
「じゃあ言えなかったら次からお仕置きな?」
「…っ、な?って…お、おかしいよ!おかしいよね?!“じゃあ”の使い方!」
ハハ、と声に出して笑っている自分に驚きだ。
必死に反論している美音が面白くて。
その表情の変化もどんどん俺に近づいてきてくれてると思うから。
触れたくて弄りたくて苛めたくて可愛がりたくなる。
ちょっと待ってろ、と美音に言い残し、俺は2階の自室へ上着とマフラーを取りに向かう。
特に意識した訳ではないけど。
足音を殺し階段を下りていくと、玄関先で開いた携帯電話へじっと魅入っている美音の姿に出くわした。
そうっと背後から覗きこめばそこにいるのは寝ている俺。
「オイ。そこのドがつく変態」
「!!!」
「肖像権の侵害だ。
俺の可愛い寝顔を返せ」
ちょっとからかっただけなのに。
美音はひどく何かを堪えるように喉をコクリと鳴らすと、ごめんなさいと言いながら携帯電話を俺へ差し出した。
「……ごめんなさい…勝手に。
あの…消して…」
ソファーに横たわれば、見える位置。
俺は身体を伸ばし片手は頭の下へ、片手で本を持ち顔の前へ掲げると美音が奏でる美しい音色に包まれながら、静かに文字を追った。
答えてもらったところで絶対 分かんないんだけど。
それでも。
何て曲 練習してんだ?と問うた。
予選では3曲弾かなくちゃいけなくて。
バッハの平均律クラヴィーア曲集第2巻から1曲と。
ショパンの24の前奏曲から1曲。
あと、ドビュッシーの前奏曲集から…
いつの間に引きずり込まれたのか。
俺は眠りの世界をたゆたっていた。
深く暗い色をした、空と大地の境目も分からない荒涼とした土地に。
美音が一人、佇んでいる。
その細く小さな身体にこれでもかと吹きつけている荒々しい風。
不気味な黒さとともに美音が攫われそうだ。
待て。
連れて行くな。
「…み、お…」
ああ、でも。
雲が急激に流れ空は明るくなる。
美音は囁くように流れる小川の傍に立ち。
俺へ優美な笑顔を見せた。
かと思えば。
俺は大聖堂に居て。
パイプオルガンに囲まれている。
音源はピアノのはずなのに。
バッハだな、これ。
それだけは何となく分かる。
カシャ、と機械的な音がしたような気がした。
かなくん?と小さな声が聞こえたような気もした。
頬に触れられたような気も。
夢か。
夢だったか。
相澤くん、と呼ばれた気落ちが俺に現実味を与えた。
「もう、行くね」
「…え」
壁の時計を見上げれば4時。
俺、一体どれだけ寝てたんだ。
なんで、と起き上がりながら喉から絞り出した声はひどく掠れた。
胸の上から本がずり落ちそうになる。
「…ああ。バイトだったな」
うん、とコクリ頷く美音。
送ってく、と立ち上がると案の定、大丈夫、と遠慮された。
「…お前ね。
いつになったら、奏くんありがとう大好き、って。
言えるようになんの?」
「…な、んか…レベル上がって…」
「じゃあ言えなかったら次からお仕置きな?」
「…っ、な?って…お、おかしいよ!おかしいよね?!“じゃあ”の使い方!」
ハハ、と声に出して笑っている自分に驚きだ。
必死に反論している美音が面白くて。
その表情の変化もどんどん俺に近づいてきてくれてると思うから。
触れたくて弄りたくて苛めたくて可愛がりたくなる。
ちょっと待ってろ、と美音に言い残し、俺は2階の自室へ上着とマフラーを取りに向かう。
特に意識した訳ではないけど。
足音を殺し階段を下りていくと、玄関先で開いた携帯電話へじっと魅入っている美音の姿に出くわした。
そうっと背後から覗きこめばそこにいるのは寝ている俺。
「オイ。そこのドがつく変態」
「!!!」
「肖像権の侵害だ。
俺の可愛い寝顔を返せ」
ちょっとからかっただけなのに。
美音はひどく何かを堪えるように喉をコクリと鳴らすと、ごめんなさいと言いながら携帯電話を俺へ差し出した。
「……ごめんなさい…勝手に。
あの…消して…」
