そうだよな。
1週間前は無かった、って。
きっと、美音は、自信を持って言えるんだ。
俺の右隣の席で、ずっと俺を見てくれてたんだもんな。
「…ごめんな?」
「…相澤くん?」
「俺、1週間前の美音は覚えてねえけど。
一昨日からの美音なら全部思い出せるから」
大きな瞬きの後、美音の視線は俺の右手から目元へと移って来た。
フルリと揺れる睫毛が長い。
そんないちいちに背中も胸の奥底もゾワゾワと奇妙に揺さぶられる。
だから、と言いかけて言葉をのむ。
だから、何だと紡ぎたいんだ。
こんな廊下で。
寒いのに。
寒いはずなのに、俺は。
美音の頬も瞳も触れているほんの少しの指先も。
熱い。
浮かされたように、酔っている。
「…手袋、見つかったから」
「…え」
「こっち。来て見て確かめて」
紺色のハイソックスを柔らかく擦る美音を待つ。
まだ脚に力 入らねえの?
「…這っていっても、いい?」
「俺をどうしたいんだ、美音」
不思議顔の美音に他意は無い。
うん、まったく無さそうだ。
小悪魔か、コイツ。
いわゆるお姫様抱っこ、とかしてもいいんだけど。
…それやると。
今の俺なら行き先はリビングじゃなさそうな気がして。
ノロノロと立ち上がる美音を気長に待った。
「これ」
そう言って差し出した。
何気ないように。
俺の胸の内なんて気取られないように。
とは言えぶっきらぼうになりすぎないように。
「あ…わあ!」
だけど。
俺の視線なんて、俺の動悸の激しさなんて。
まるで意に介してない美音は喜びを素直に表す。
当たり前だ。
あ、出た。笑窪。
更なるオプション、来い。
「ありがとう!本当に!あああ、良かったあ…」
手袋の片方ずつを手に持ち、じっと見つめている。
大きな瞳が潤んでいるような。
俺はソファーに座りながら、立ったままの美音へ言葉をかけた。
「いいんだぞ。抱きしめても、頬ずりしても」
俺に、ね。
御礼に、ね。
「え…いいの?」
「ってそっちかい」
お約束だな。
美音は良かった、ともう一度漏らすと大事そうに両の頬に当て意味なく頷きながら指の部分へ1本1本を通し、はめ心地を確認するとまた自身の頬を柔らかく覆った。
「…なあ。
それ、マジでお袋さんの手作り?」
「?うん。そう」
それしては喜び方がハンパない。
それともいつか何かの折に俺へも同じ様に向けてくれるもの?
今、欲しい、とか。
思ってしまう俺は強欲で我儘?
「…お前。今朝。マフラー、してなかった」
あれも大事にする、って言ってくれてた気がするのに。
そんで美音の言葉には何一つ嘘偽りが無いように思ってんのに。
…ああ、何?
手袋で包みこまれた美音の頬がみるみるうちにピンク色に染まっていくんだけど。
「…あれは…その、大事、すぎて。
気安く…使えません…」
「マフラーなんだから寒い時しなきゃ意味ねえじゃん。
何?カシミアだから使えねえの?」
美音は知らねえだろうけど。
俺、色違いでもう1本持ってんだ。
今日、学校にしてったヤツ。
独特のロゴが控えめに入ったそれが美音の首元を温めてるかと思うと、何となく充たされんのに。
「ち、違うよ?あの…」
「何だよ?ウール100%のもあるぞ」
「…や、素材の問題、ではなくて」
相澤くんが、くれたものだから。
勿体なくて。大事すぎて。
…美音。
なあんで、そんな可愛いこと言ってくれちゃってんの。
分かってる?お前。
今、この無駄に広い家の中に、俺とお前と2人きりなんだぞ?
「…あ、相澤く…?ち、近」
「近づいてんだ、当たり前だろ」
窓際へ後ずさる美音の行き場はもうそれ以上ない。
薄いレースカーテンに触れた拍子に金具がレールを走る音がした。
ピクリと跳ね上がる美音の身体。
瞬きもせず瞠目した瞳に映ってるのは俺だけ。
身を屈め美音の顔を覗きこむようなこの格好、しんどいっちゃしんどいんだけど。
「…美音の気持ちは嬉しいけど。
俺はしまい込まれてるよりガンガン使ってもらった方が良い」
「…う、ん…。そうする…」
「お利口」
1週間前は無かった、って。
きっと、美音は、自信を持って言えるんだ。
俺の右隣の席で、ずっと俺を見てくれてたんだもんな。
「…ごめんな?」
「…相澤くん?」
「俺、1週間前の美音は覚えてねえけど。
一昨日からの美音なら全部思い出せるから」
大きな瞬きの後、美音の視線は俺の右手から目元へと移って来た。
フルリと揺れる睫毛が長い。
そんないちいちに背中も胸の奥底もゾワゾワと奇妙に揺さぶられる。
だから、と言いかけて言葉をのむ。
だから、何だと紡ぎたいんだ。
こんな廊下で。
寒いのに。
寒いはずなのに、俺は。
美音の頬も瞳も触れているほんの少しの指先も。
熱い。
浮かされたように、酔っている。
「…手袋、見つかったから」
「…え」
「こっち。来て見て確かめて」
紺色のハイソックスを柔らかく擦る美音を待つ。
まだ脚に力 入らねえの?
「…這っていっても、いい?」
「俺をどうしたいんだ、美音」
不思議顔の美音に他意は無い。
うん、まったく無さそうだ。
小悪魔か、コイツ。
いわゆるお姫様抱っこ、とかしてもいいんだけど。
…それやると。
今の俺なら行き先はリビングじゃなさそうな気がして。
ノロノロと立ち上がる美音を気長に待った。
「これ」
そう言って差し出した。
何気ないように。
俺の胸の内なんて気取られないように。
とは言えぶっきらぼうになりすぎないように。
「あ…わあ!」
だけど。
俺の視線なんて、俺の動悸の激しさなんて。
まるで意に介してない美音は喜びを素直に表す。
当たり前だ。
あ、出た。笑窪。
更なるオプション、来い。
「ありがとう!本当に!あああ、良かったあ…」
手袋の片方ずつを手に持ち、じっと見つめている。
大きな瞳が潤んでいるような。
俺はソファーに座りながら、立ったままの美音へ言葉をかけた。
「いいんだぞ。抱きしめても、頬ずりしても」
俺に、ね。
御礼に、ね。
「え…いいの?」
「ってそっちかい」
お約束だな。
美音は良かった、ともう一度漏らすと大事そうに両の頬に当て意味なく頷きながら指の部分へ1本1本を通し、はめ心地を確認するとまた自身の頬を柔らかく覆った。
「…なあ。
それ、マジでお袋さんの手作り?」
「?うん。そう」
それしては喜び方がハンパない。
それともいつか何かの折に俺へも同じ様に向けてくれるもの?
今、欲しい、とか。
思ってしまう俺は強欲で我儘?
「…お前。今朝。マフラー、してなかった」
あれも大事にする、って言ってくれてた気がするのに。
そんで美音の言葉には何一つ嘘偽りが無いように思ってんのに。
…ああ、何?
手袋で包みこまれた美音の頬がみるみるうちにピンク色に染まっていくんだけど。
「…あれは…その、大事、すぎて。
気安く…使えません…」
「マフラーなんだから寒い時しなきゃ意味ねえじゃん。
何?カシミアだから使えねえの?」
美音は知らねえだろうけど。
俺、色違いでもう1本持ってんだ。
今日、学校にしてったヤツ。
独特のロゴが控えめに入ったそれが美音の首元を温めてるかと思うと、何となく充たされんのに。
「ち、違うよ?あの…」
「何だよ?ウール100%のもあるぞ」
「…や、素材の問題、ではなくて」
相澤くんが、くれたものだから。
勿体なくて。大事すぎて。
…美音。
なあんで、そんな可愛いこと言ってくれちゃってんの。
分かってる?お前。
今、この無駄に広い家の中に、俺とお前と2人きりなんだぞ?
「…あ、相澤く…?ち、近」
「近づいてんだ、当たり前だろ」
窓際へ後ずさる美音の行き場はもうそれ以上ない。
薄いレースカーテンに触れた拍子に金具がレールを走る音がした。
ピクリと跳ね上がる美音の身体。
瞬きもせず瞠目した瞳に映ってるのは俺だけ。
身を屈め美音の顔を覗きこむようなこの格好、しんどいっちゃしんどいんだけど。
「…美音の気持ちは嬉しいけど。
俺はしまい込まれてるよりガンガン使ってもらった方が良い」
「…う、ん…。そうする…」
「お利口」
