「…好きな人がいる、って断ったら?ってアドバイスしたの。
真剣に心から伝えれば分かってもらえるよ、って。お相手も感じ良さそうな子だったしさ。
美音ちゃ…相川さん、はきちんと対処して、でも次は別の子に“それでも構わない”って迫られたらしくて」
「よし、そいつの名前も教えろ」
教えないよ、と俺をいなす和。
守秘義務とか今さら掲げやがって。
そんなら美音の恋バナも…
…いや、それはいい。うん。
ごめんな、美音。
俺は、勝手だ。
「同じクラスになったんです。
席が隣になったんです。
苗字が相川で良かった。
落とした消しゴム拾ってくれたんです。
チョーク持つ手が綺麗で見惚れちゃった。
…嬉しそうに瞳キラキラで報告に来てくれてね。
あの子、ここに笑窪できるよね、笑うと」
「………」
「…奏?」
真っ赤だよ、って。
かけられた言葉にからかいの色は含まれてなかった。
ストーブのせいだよ、って。
言ってやったけど。
本当はそうじゃないことくらい。
俺も和も分かってた。
「…なあんで和が、見てんだよ…」
笑窪まで。
俺の知らない美音をコイツは見てきてる。
知っている。
話してる。
他のヤツらだってそうだ。
俺よりずっと先に 、美音の存在に、あの可愛さに美しさに気づいて見つけた野郎はきっとたくさん居るんだ。
俺が、知らなかっただけで。
そんな醜い執着と嫉妬と。
でもどれほど前から好かれていたのかと知らされた歯がゆさとこそばゆさ。
それらが織りなす絶妙の居たたまれなさが俺の頬を紅く染める。
「…また。奏の悪い癖だね。
何でも手に入れたがる」
そんなんじゃ逃げられちゃうよ。
飲み干したのか、和はマグカップを机の上へコトン、と置く。
「逃がさねえよ。
美音はこの先ずっと、俺だけのもの」
「怖いよ、奏。
一族から犯罪者は出したくないんだけど」
「アホか。理性くらいある」
ふ、と緩んだ和の頬。
目を細め、そのまま視線は手袋へと向けられた。
それにつられるように俺の手は手袋へ伸び、すっかり乾いていることを触覚は教えてくれる。
「…昨日さ。可愛かったなあ。
伊野さんがここへ連れて来て。
どうしたの?って訊いたら転んじゃいました、って」
誰が、っていうのは和の言葉に登場しないんだけど。
それが美音を指してるのなんて容易に分かる。
転んじゃいました、と口にする美音の仕草も声も。
今の俺なら手に取るように分かる。
「僕と奏が親戚だ、ってみんな知らないから。
奏の名前は女の子の口からよく聞かされてたんだよね」
手袋を手に立ち上がった俺へ、和は歩み寄りながら微笑みかける。
…ああ、こういう表情は似てて欲しいと思うけど。
「どんな子とどうつき合おうと、そりゃあ奏の自由だし。
律歌の世話になるようなヘマ、やらかさなきゃいいけど、って思ってた」
和。
俺を一体、どれだけだらしない男だと思ってんだ。
さして興味関心が無かったんだから清らかなもんだっつーの。
そんなことでも考えてなきゃ、珍しく真面目な和の視線がこそばゆく受け止められない。
「大切にしてあげなよ?美…相川さんのこと」
「和に言われなくても分かってる」
「本当に。いろんな意味で、だよ?
昨日の2人の図ときたら蛇に睨まれた蛙みたいで」
「ボケ。
カクレクマノミを愛でるイソギンチャクのよう、だろが」
「…ある意味、的を射てるけど」
窓際で革靴を履き、入って来た時とは逆に出て行こうとする俺の背にねえ、と和の声が追って来る。
「僕、これからも相川さんの相談にのってもいい?」
「…悩ませねえよ、まず」
窓枠に脚をかけヒラリと乗り越えると外のコンクリート部分に着地する。
よし。今度はコンタクト落ちなかった。
両眼とも失くしたら、俺、マジで家へ帰れない。
美音の手袋をきちんと揃え合わせ、カバンの中へしまい込む。
あの笑顔は確定だろ。
オプションが付けばなおさら良いけど…無理かな。
すんげえ近づいただけで血管破裂すんじゃねえかと思うくらい真っ赤っかだもんな。
「…奏。気持ち悪い」
真剣に心から伝えれば分かってもらえるよ、って。お相手も感じ良さそうな子だったしさ。
美音ちゃ…相川さん、はきちんと対処して、でも次は別の子に“それでも構わない”って迫られたらしくて」
「よし、そいつの名前も教えろ」
教えないよ、と俺をいなす和。
守秘義務とか今さら掲げやがって。
そんなら美音の恋バナも…
…いや、それはいい。うん。
ごめんな、美音。
俺は、勝手だ。
「同じクラスになったんです。
席が隣になったんです。
苗字が相川で良かった。
落とした消しゴム拾ってくれたんです。
チョーク持つ手が綺麗で見惚れちゃった。
…嬉しそうに瞳キラキラで報告に来てくれてね。
あの子、ここに笑窪できるよね、笑うと」
「………」
「…奏?」
真っ赤だよ、って。
かけられた言葉にからかいの色は含まれてなかった。
ストーブのせいだよ、って。
言ってやったけど。
本当はそうじゃないことくらい。
俺も和も分かってた。
「…なあんで和が、見てんだよ…」
笑窪まで。
俺の知らない美音をコイツは見てきてる。
知っている。
話してる。
他のヤツらだってそうだ。
俺よりずっと先に 、美音の存在に、あの可愛さに美しさに気づいて見つけた野郎はきっとたくさん居るんだ。
俺が、知らなかっただけで。
そんな醜い執着と嫉妬と。
でもどれほど前から好かれていたのかと知らされた歯がゆさとこそばゆさ。
それらが織りなす絶妙の居たたまれなさが俺の頬を紅く染める。
「…また。奏の悪い癖だね。
何でも手に入れたがる」
そんなんじゃ逃げられちゃうよ。
飲み干したのか、和はマグカップを机の上へコトン、と置く。
「逃がさねえよ。
美音はこの先ずっと、俺だけのもの」
「怖いよ、奏。
一族から犯罪者は出したくないんだけど」
「アホか。理性くらいある」
ふ、と緩んだ和の頬。
目を細め、そのまま視線は手袋へと向けられた。
それにつられるように俺の手は手袋へ伸び、すっかり乾いていることを触覚は教えてくれる。
「…昨日さ。可愛かったなあ。
伊野さんがここへ連れて来て。
どうしたの?って訊いたら転んじゃいました、って」
誰が、っていうのは和の言葉に登場しないんだけど。
それが美音を指してるのなんて容易に分かる。
転んじゃいました、と口にする美音の仕草も声も。
今の俺なら手に取るように分かる。
「僕と奏が親戚だ、ってみんな知らないから。
奏の名前は女の子の口からよく聞かされてたんだよね」
手袋を手に立ち上がった俺へ、和は歩み寄りながら微笑みかける。
…ああ、こういう表情は似てて欲しいと思うけど。
「どんな子とどうつき合おうと、そりゃあ奏の自由だし。
律歌の世話になるようなヘマ、やらかさなきゃいいけど、って思ってた」
和。
俺を一体、どれだけだらしない男だと思ってんだ。
さして興味関心が無かったんだから清らかなもんだっつーの。
そんなことでも考えてなきゃ、珍しく真面目な和の視線がこそばゆく受け止められない。
「大切にしてあげなよ?美…相川さんのこと」
「和に言われなくても分かってる」
「本当に。いろんな意味で、だよ?
昨日の2人の図ときたら蛇に睨まれた蛙みたいで」
「ボケ。
カクレクマノミを愛でるイソギンチャクのよう、だろが」
「…ある意味、的を射てるけど」
窓際で革靴を履き、入って来た時とは逆に出て行こうとする俺の背にねえ、と和の声が追って来る。
「僕、これからも相川さんの相談にのってもいい?」
「…悩ませねえよ、まず」
窓枠に脚をかけヒラリと乗り越えると外のコンクリート部分に着地する。
よし。今度はコンタクト落ちなかった。
両眼とも失くしたら、俺、マジで家へ帰れない。
美音の手袋をきちんと揃え合わせ、カバンの中へしまい込む。
あの笑顔は確定だろ。
オプションが付けばなおさら良いけど…無理かな。
すんげえ近づいただけで血管破裂すんじゃねえかと思うくらい真っ赤っかだもんな。
「…奏。気持ち悪い」
