クラシック

…顔?
やめて、と言われるほどの粗相を俺の顔がしたとでも?
自分で言うのは本当にやらしいけど、どちらかと言えばイケメン分類してもらえてたんじゃないか、俺って。
一晩で世界基準が変わったか。



「ニヤけてるの?引き攣ってるの?それ。
美音のこと考えて?それとも悪事を企んでるの?
あんた、ネコは迷子になってるしキャラ崩壊してるしグダグダだわ」

「…伊野の言葉は時に凶器だな」



そうだ。
伊野にも確認しなきゃ。
1時間目終わりの休み時間、俺は美音の手袋を捜したい、と伊野を連れだって隣のクラスへと足を運んだ。



…その前に、きっちりと。
翔太の泣き所は痛めつけてやった。
アイツ、伊野の言葉にゲラゲラ笑いやがって。
失礼極まりない、マジで。



「美音から聴いたの?手袋のこと」

「投げ捨てられたことか?
それともお袋さんの手作りだってこと?」



どっちも聴いてるならいいや、と。
隣のクラスへ着くなり、伊野は山上、と出入口で声を張り上げた。
いい声だ。腹筋鍛えてあんだろな。



「相澤、あんた ネコかぶりバージョンでいくの?」

「爽やか腹黒バージョンのご用意もあるぞ」

「そっち見たい。それでいこう」



山上と 呼ばれた女生徒がこちらへ向かってくる間、伊野はアクション、と小さく声をかけてくる。
伊野。
そんな仕切りはなくてもデキる子だから、俺。



「なあに?相澤くん」



小首を傾げる仕草の意味が分かんねえよ。
大体、伊野に呼ばれたくせに伊野を無視しきってるとこが気に入らない。
あとの2人は違うクラスなんだよね、と呟く伊野に耳を貸しながら、山上さん、と爽やか仮面を一瞬でかぶる。



「ちょっといいかな?大事な話があるんだ」

「ちょうど良かったあ。
アタシも相澤くんに訊きたいことあるんだー」



片方の口角だけ上げながら、俺はクイ、と顎で誘い屋上へ続く階段の踊り場へ向かう。
休み時間は残り少ない。
有効活用しなきゃな。
後ろ手を組んで上目遣いで見上げてきて、精一杯の愛嬌を振り撒いてるつもりか。
愛嬌よりIQだと思うぞ、お前に必要なのは。



「…ところで」



ヒッ、と声が上がる。
そりゃそうだ、お前の顔の真横に右脚 振り下ろしてやったんだからな。
身体、柔けえんだよ、俺。
伊野は聡い。
俺の暴挙を隠すように庇って立ち位置を取る。



「貴重な時間をまずやるよ。
1分な。訊きたいことって何だ?」



見開いた目が乾きそうなくらい瞬きも忘れた瞳を冷たく見下ろす。
驚きが先に立っているらしくそこに感情は宿っていない。
こっちは目一杯の嫌悪を籠めてるけどな。



「…残り45秒」

「あっ、…あっ、相川さんと、その…」

「つき合ってるって話?マジだけど。それが?」



教科書でもサラサラ音読するように。
俺の口をつく毒は止まらずミントの風(自称)に乗っていく。
伊野が口元を歪ませて笑いを堪えている様が視界の隅に入った。



「えっ、え?!な、んで?!なんで、あんなっ」

「好きだからつき合ってるに決まってんだろーがよ。
“あんな”からの何だ?
その先の言葉よくよく考えて吐けよ?場合によっちゃお前のこの先の学生生活に安泰の二文字はなくなるぞ」

「っ、なっ!ひどい…」

「泣かせちゃ面倒よ、相澤」



参謀か名監督よろしく状況分析する伊野へ分かってる、と短く告げた。
手袋は?と威嚇するように顎を上げ詰問すると、山上の眉間に皺が寄る。



「お前が投げ捨てた美音の手袋だよ。どこやった?
どこ行ったか見当くらいつくだろ?」

「わっ…わか、ん…」

「よく考えろ、っつったよな?」



山上は耐えきれないといった風にズルズルと壁伝いに床へへたり込んでいった。
…チ。
これしきの威圧感でへこむくらいなら初めから美音にちょっかい出すんじゃねーよ。