それ以後、言葉を失った伊野へ、じゃあ、と告げ終話ボタンを押す。
携帯電話を美音へ返しながら、この行為の理由をどう切り出したものかと数瞬悩んだ。
…いや、一言で言えば嫉妬、なんだけど。
口を開きかけた途端、美音の声に遮られた。
「…あの。ごめんなさい…23日のお昼は。
初めはバイトの予定で、でも昨日、急にお休みになって。
もしお休みになったら…その、しーちゃんにまず伝える約束してて」
申し訳なさそうに早口でまくし立てる美音。
それでか。約束を守ろうと、まずは伊野に電話。
俺の家へ来る来ないは別として。
律儀な美音。
そうやって今まで美音を形づくってきた要素を簡単に曲げさせる権利なんて俺にはないな。
そりゃ、一緒に過ごせればそれに越したことはないけど。
物わかりの良い彼氏ぶるくらいは、出来るかもしれない。
「…ああ、それなら。
伊野との約束、優先させて構わないけど」
「…うん…それが、その」
しーちゃん、予定入れちゃったって。
俺と携帯電話へ交互に視線を這わせポツリとこぼす美音に口角が上がっていっても致し方ないと思う。
「じゃあ、決まり。23日は俺ん家ね。
メシの前?後?」
「…え、何、」
「デートだろ。メシの後にするか。
そんで送ってく、美音のバイト先まで。
お前、どこでバイトしてんの?」
「…お母さんには、お伝えしましたが」
「俺にもお伝えしろ」
美音の背中をピアノ部屋へ押しやりながら答えを促す。
北中の近くのコンビニ、と。
行った覚えがある店名が告げられた。
…いかがわしい物は、買って、ない、はず。
「…ガム、買ってってくれたよ」
「え、俺?ガム?いつ?」
「…去年。1年生の時。
こう…細長いガムをね、ス、とレジの所に出して」
綺麗だったな、と言う。
空を描くお前の細い指の方がよほど綺麗だと思う。
俺も変だけど。
美音も相当 変。
「…手フェチか、美音。変態」
「…う」
「まあ。何だって好きだけど」
ピアノ部屋へ押し入れると、腰から砕けたように床へへたり込み頭を抱え込んだ美音。
お前も恥ずかしかった?
いや、俺も恥ずかしかったって。
去年のことをそんな鮮明に覚えてくれてるなんて。
自惚れは一体どんなレベルで許されるんだろうな。
美音はその後、1時間ちょっとピアノ部屋へ籠もり、またリビングへ姿を現した。
「…あの。
おいとまします、お邪魔しました」
「待てよ、送ってく」
ドア近くに置いていた自分のカバンとブレザーを手にした美音は、いいです大丈夫、と慌てて手を振る。
…まったくコイツは。
遠慮ばっかだ。
「黙って送られとけ。
暗くなってきたぞ、痴漢出るぞ、攫われて売られてお母さんに逢えなくなるぞ」
「奏、怖い!
美音ちゃん、怖がってる!」
声を聞きつけたのか、キッチンに居たはずのお袋が姿を見せる。
怖かろうと何だろうと。
これくらい言わなきゃ美音は受け入れないんだよ、きっと。
「美音ちゃん、遠慮することないわ!
奏、家に居たってテレビ観てるだけなんだから!
寒くないの?コートは?マフラーは?手袋も!」
大丈夫ですカバンに、と笑みを浮かべながら応える美音の背中を玄関から押し出した。
また来てね!と追いかけてくる言葉に丁寧に頭を下げながら。
律儀だな、本当に。
「…お前。出さないの?」
再び躓くことのないよう、段差を確認しつつ敷石を進む美音。
門扉を出たところで問い質した。
朝、連れ立って学校を出た時からコートは手にしていなかった。
マフラーと手袋の存在を、意識を遡って思い出そうとしたけれど記憶にない。
…カバンに。入ってるんじゃないのか?
「…いいの。無くても大丈夫」
「アホか。ほら」
言いながら俺は首に巻いていたマフラーを外し、相変わらず右後方に位置する美音の手に握らせる。
俺は私服だしダウンジャケット着込んでるし。
風邪なんてひきたくないから防寒対策はバッチリだ。
なのに美音ときたら。
上は冬服のカーディガンにブレザーを羽織ってまあそれなりだけど。
スカートと紺色のソックスの間に見える白い肌が寒々しくて仕方ない。
「見てるだけで寒い。
大体、女子のスカートはなんでそんなに短いんだ?」
「…私、曲げてないけど」
「…知るか。膝、出てんだろ膝。
持ってんなら手袋しろよ早く。マフラーも」
「………」
「……美音?」
俺の言葉に直接答えることなく。
美音は、ここから学校って近いの?と小さく訊いてきた。
携帯電話を美音へ返しながら、この行為の理由をどう切り出したものかと数瞬悩んだ。
…いや、一言で言えば嫉妬、なんだけど。
口を開きかけた途端、美音の声に遮られた。
「…あの。ごめんなさい…23日のお昼は。
初めはバイトの予定で、でも昨日、急にお休みになって。
もしお休みになったら…その、しーちゃんにまず伝える約束してて」
申し訳なさそうに早口でまくし立てる美音。
それでか。約束を守ろうと、まずは伊野に電話。
俺の家へ来る来ないは別として。
律儀な美音。
そうやって今まで美音を形づくってきた要素を簡単に曲げさせる権利なんて俺にはないな。
そりゃ、一緒に過ごせればそれに越したことはないけど。
物わかりの良い彼氏ぶるくらいは、出来るかもしれない。
「…ああ、それなら。
伊野との約束、優先させて構わないけど」
「…うん…それが、その」
しーちゃん、予定入れちゃったって。
俺と携帯電話へ交互に視線を這わせポツリとこぼす美音に口角が上がっていっても致し方ないと思う。
「じゃあ、決まり。23日は俺ん家ね。
メシの前?後?」
「…え、何、」
「デートだろ。メシの後にするか。
そんで送ってく、美音のバイト先まで。
お前、どこでバイトしてんの?」
「…お母さんには、お伝えしましたが」
「俺にもお伝えしろ」
美音の背中をピアノ部屋へ押しやりながら答えを促す。
北中の近くのコンビニ、と。
行った覚えがある店名が告げられた。
…いかがわしい物は、買って、ない、はず。
「…ガム、買ってってくれたよ」
「え、俺?ガム?いつ?」
「…去年。1年生の時。
こう…細長いガムをね、ス、とレジの所に出して」
綺麗だったな、と言う。
空を描くお前の細い指の方がよほど綺麗だと思う。
俺も変だけど。
美音も相当 変。
「…手フェチか、美音。変態」
「…う」
「まあ。何だって好きだけど」
ピアノ部屋へ押し入れると、腰から砕けたように床へへたり込み頭を抱え込んだ美音。
お前も恥ずかしかった?
いや、俺も恥ずかしかったって。
去年のことをそんな鮮明に覚えてくれてるなんて。
自惚れは一体どんなレベルで許されるんだろうな。
美音はその後、1時間ちょっとピアノ部屋へ籠もり、またリビングへ姿を現した。
「…あの。
おいとまします、お邪魔しました」
「待てよ、送ってく」
ドア近くに置いていた自分のカバンとブレザーを手にした美音は、いいです大丈夫、と慌てて手を振る。
…まったくコイツは。
遠慮ばっかだ。
「黙って送られとけ。
暗くなってきたぞ、痴漢出るぞ、攫われて売られてお母さんに逢えなくなるぞ」
「奏、怖い!
美音ちゃん、怖がってる!」
声を聞きつけたのか、キッチンに居たはずのお袋が姿を見せる。
怖かろうと何だろうと。
これくらい言わなきゃ美音は受け入れないんだよ、きっと。
「美音ちゃん、遠慮することないわ!
奏、家に居たってテレビ観てるだけなんだから!
寒くないの?コートは?マフラーは?手袋も!」
大丈夫ですカバンに、と笑みを浮かべながら応える美音の背中を玄関から押し出した。
また来てね!と追いかけてくる言葉に丁寧に頭を下げながら。
律儀だな、本当に。
「…お前。出さないの?」
再び躓くことのないよう、段差を確認しつつ敷石を進む美音。
門扉を出たところで問い質した。
朝、連れ立って学校を出た時からコートは手にしていなかった。
マフラーと手袋の存在を、意識を遡って思い出そうとしたけれど記憶にない。
…カバンに。入ってるんじゃないのか?
「…いいの。無くても大丈夫」
「アホか。ほら」
言いながら俺は首に巻いていたマフラーを外し、相変わらず右後方に位置する美音の手に握らせる。
俺は私服だしダウンジャケット着込んでるし。
風邪なんてひきたくないから防寒対策はバッチリだ。
なのに美音ときたら。
上は冬服のカーディガンにブレザーを羽織ってまあそれなりだけど。
スカートと紺色のソックスの間に見える白い肌が寒々しくて仕方ない。
「見てるだけで寒い。
大体、女子のスカートはなんでそんなに短いんだ?」
「…私、曲げてないけど」
「…知るか。膝、出てんだろ膝。
持ってんなら手袋しろよ早く。マフラーも」
「………」
「……美音?」
俺の言葉に直接答えることなく。
美音は、ここから学校って近いの?と小さく訊いてきた。
