「じゃあ、相澤。頼んだぞ」
はい、とすでに踵を返しながら体育館倉庫へ向かう。
手の中にはチャリ、と鳴る鍵の束。
音の正体を確かめる絶好のチャンス。
生徒会長、ってのもやっとくもんだな。
かぶってるネコは重いんだが。
いつからか、気になっていた。
生徒会での雑務を終え、帰路へとつく途中。
体育館の傍を通れば必ずと言っていいほど聴こえてきた。
あれは。
(……ピアノの音……)
何故、あんな場所から。
一体、誰が。
曲名こそよく知らないが、それでも耳にした覚えのあるクラシック。
運動部系のヤツらが冗談半分に弾いているとは思えないレベル。
探検好きのガキか。
自嘲しながら、それでも俺は足を速めた。
おう相澤、と部活動中の連中から声をかけられる。
今日の体育館使用組はバスケとバドミントンか。
何してんだ、という問いかけにいちいち答えるのも面倒で、ちょっとな、と曖昧な笑いを返し済ませる。
ギ、と歪な音をたて倉庫のドアを手前へ引く。
もとより自分の存在を隠すつもりはないのだから、こっそり動く必要はない。
それでも。
ここの埃臭さとすえた匂いと、一体いつから置かれているのか分からない使わなくなった用具の年季が醸し出す薄気味悪さに辟易して思わず立ち止まってしまう。
音はまだ、聴こえてくる。
こんなにも広いと思わなかった。
しかも、寒い。
体育館自体の熱気はここまで及んでいないらしい。
さすがに12月。
鍵を手渡してきた佐野先生も言っていたが、ここは日常的には使用しておらず、処分予定の用具をただ押し込めておくだけの場所なのだと。
ただ近日、全てを処分することになったから、と倉庫内の掃除を命じられた。
生徒会役員全員で、という話だったけれど。
まあ、いい。
今日は様子見。
今日中に終わらせなければならない訳じゃない。
踏み出した一歩は、ミシ、と床が抜け落ちそうな不穏な音を立てた。
それでも音はまだ。
聴こえてくる。
