その、一瞬、って。と。
切れ切れに繋げられた美音の言葉に潜む深意が分からない。
分かりたい、と考える自分の変化になんてとっくに気づいてる。
「だったら?」
「…美音じゃないみたい、って…よく、言われる。
ピアノ、弾いてる時は、別の人みたい、って」
ああ、分かった。お前の言いたいこと。
自分で自分を“美音”と呼んだ新鮮さが可愛く想えて笑みが浮かぶ。
…浮かんでいる、と信じたい。
頑張れ俺の表情筋。
「今、弾いてないじゃん」
「?…はい」
「俺、今この瞬間もお前のこと好きだな、って思ってるけど」
美音の顔はまた燃え上がった。
ハンカチは膝の上に落ち、言葉もなくあっけにとられた表情が出てくる。
本当に。
俺は上手く笑えてるんだろうか。
ネコをかぶってない時の笑い方なんて意識したこともなかったから。
「…ど、して…そんな、サラリと……」
やっと出てきたかと思えば、まだ何もかもが吹っ切れちゃいなさそうな言葉。
サラリと、なんて簡単に決めつけてんじゃねえよ。
俺は右手を伸ばし美音の左手首を掴んだ。
「ほら。すげえ音してね?」
「え、わっ…」
「俺だって人の子だっつったろ?心臓くらいバクバクすんだよ」
そうだよ、昨日から。
俺の心臓は平常時の心拍を忘れてる。
伝わればいいのに、何もかも。お前が原因だって。
布越しに触れているこの左手薬指は、美音の心臓に一番近いんだろ?
「俺、あんま感情が顔に出ないからな」
「…そうかな。そんなこと」
ないと思うけどな。
泣きやんだ美音の言葉からそれまでのぎこちなさは消え。
しかも優しく微笑まれる。
やっとこさ、心が解れてきてくれた?
「そりゃ、お前。
美音が俺のこともんのすごく好きだからそう思うんじゃねえの?」
否定の色は微塵もない瞳が瞬時に潤む。
こういうのも悩殺的、って言うんじゃね?
他のヤツに見せんじゃねーぞ、そんな顔。
つかキスすんぞ、いつまでも見つめてると。
「名前、呼べよ?イメージトレーニング重ねろ。
奏か奏成くんか奏ちゃん、か」
それも併せて練習な。
俺はまた椅子を跨いで立ち上がる。
俺を見上げる美音の無防備なおでこにチュ、と甘いリップ音を残して。
…ヒ、って。何なの、美音。
リビングに置きっぱなしだったカバンを部屋へ持ち帰り、スマホを片手にベッドへ仰向けになる。
翔太へ、連絡しておこう。
お前が暗に示していた美音の気持ち。
数時間前まで抱えていた苛立ちも今は凪いで、むしろ感謝すら述べたいかもしれない。
《奏ちゃん?何?》
「美音は可哀想じゃないから。俺、ちゃんと自覚したから。
つか、してたから」
《わー、一方的》
まあでも、と。
翔太は続ける。
どうしよう、俺は美音を手に入れる代わりに5年来の友情は手放すことになるのか。
《良かった。美音ちゃんの気持ち無視して勝手するんだったら伊野さんじゃなくてもオレがやってた》
いや負けるだろうけどさ、とカラカラ翔太は笑う。
耳にすんなり入るその明るい響きは俺の言葉を紡ぎやすくしてくれた。
「…なあ。たとえ相手が翔太でも、俺。
美音を譲ったりできねんだけど」
言って、その音を自覚すると己の発言がどれだけ独占的で嫉妬にまみれているか痛感させられる。
でももう。簡単にいなせるような感情じゃないんだ。
《んー。流石に自分がどれだけ見つめられてるか、って。
気づきにくいのかな》
「…どういう意味?」
美音ちゃんに訊いてみるといいよ、と声音に笑いを多分に含ませながら翔太は続ける。
察するに美音は俺を見つめていた、ってこと?
解釈 間違ってない?
翔太へ静かに問い質すと、驚いた、と心底からの気持ちが漏れ聞こえた。
《…奏ちゃん。恋すると男の子は変わるもんだね》
「一般的に女子向きコメントな、それ」
《いやーマジびっくり!
他人から向けられる関心へも興味持つようになったんだなあ、って!》
「美音限定、な。その他大勢はやっぱ相変わらずどうでもいい」
あ、そ。
翔太はまた笑う。
そうして 奏成の解釈は間違ってないよ、と優しく肯定してくれた。
奏成。
一気に真剣味を帯びた翔太の声。
俺は何とはなしに起き上がる。
《…美音ちゃんへ好意を抱いてたのはホント。けど》
「けど?」
《美音ちゃんの視線の先にはいつも、奏成が居た。
鈍感過ぎるお前にちょっとムカついてた》
「…悪かった」
《わー、すっげえ貴重!奏ちゃんに謝られた!
ちょ、録音するからも1回言って!》
「じゃあな」
切れ切れに繋げられた美音の言葉に潜む深意が分からない。
分かりたい、と考える自分の変化になんてとっくに気づいてる。
「だったら?」
「…美音じゃないみたい、って…よく、言われる。
ピアノ、弾いてる時は、別の人みたい、って」
ああ、分かった。お前の言いたいこと。
自分で自分を“美音”と呼んだ新鮮さが可愛く想えて笑みが浮かぶ。
…浮かんでいる、と信じたい。
頑張れ俺の表情筋。
「今、弾いてないじゃん」
「?…はい」
「俺、今この瞬間もお前のこと好きだな、って思ってるけど」
美音の顔はまた燃え上がった。
ハンカチは膝の上に落ち、言葉もなくあっけにとられた表情が出てくる。
本当に。
俺は上手く笑えてるんだろうか。
ネコをかぶってない時の笑い方なんて意識したこともなかったから。
「…ど、して…そんな、サラリと……」
やっと出てきたかと思えば、まだ何もかもが吹っ切れちゃいなさそうな言葉。
サラリと、なんて簡単に決めつけてんじゃねえよ。
俺は右手を伸ばし美音の左手首を掴んだ。
「ほら。すげえ音してね?」
「え、わっ…」
「俺だって人の子だっつったろ?心臓くらいバクバクすんだよ」
そうだよ、昨日から。
俺の心臓は平常時の心拍を忘れてる。
伝わればいいのに、何もかも。お前が原因だって。
布越しに触れているこの左手薬指は、美音の心臓に一番近いんだろ?
「俺、あんま感情が顔に出ないからな」
「…そうかな。そんなこと」
ないと思うけどな。
泣きやんだ美音の言葉からそれまでのぎこちなさは消え。
しかも優しく微笑まれる。
やっとこさ、心が解れてきてくれた?
「そりゃ、お前。
美音が俺のこともんのすごく好きだからそう思うんじゃねえの?」
否定の色は微塵もない瞳が瞬時に潤む。
こういうのも悩殺的、って言うんじゃね?
他のヤツに見せんじゃねーぞ、そんな顔。
つかキスすんぞ、いつまでも見つめてると。
「名前、呼べよ?イメージトレーニング重ねろ。
奏か奏成くんか奏ちゃん、か」
それも併せて練習な。
俺はまた椅子を跨いで立ち上がる。
俺を見上げる美音の無防備なおでこにチュ、と甘いリップ音を残して。
…ヒ、って。何なの、美音。
リビングに置きっぱなしだったカバンを部屋へ持ち帰り、スマホを片手にベッドへ仰向けになる。
翔太へ、連絡しておこう。
お前が暗に示していた美音の気持ち。
数時間前まで抱えていた苛立ちも今は凪いで、むしろ感謝すら述べたいかもしれない。
《奏ちゃん?何?》
「美音は可哀想じゃないから。俺、ちゃんと自覚したから。
つか、してたから」
《わー、一方的》
まあでも、と。
翔太は続ける。
どうしよう、俺は美音を手に入れる代わりに5年来の友情は手放すことになるのか。
《良かった。美音ちゃんの気持ち無視して勝手するんだったら伊野さんじゃなくてもオレがやってた》
いや負けるだろうけどさ、とカラカラ翔太は笑う。
耳にすんなり入るその明るい響きは俺の言葉を紡ぎやすくしてくれた。
「…なあ。たとえ相手が翔太でも、俺。
美音を譲ったりできねんだけど」
言って、その音を自覚すると己の発言がどれだけ独占的で嫉妬にまみれているか痛感させられる。
でももう。簡単にいなせるような感情じゃないんだ。
《んー。流石に自分がどれだけ見つめられてるか、って。
気づきにくいのかな》
「…どういう意味?」
美音ちゃんに訊いてみるといいよ、と声音に笑いを多分に含ませながら翔太は続ける。
察するに美音は俺を見つめていた、ってこと?
解釈 間違ってない?
翔太へ静かに問い質すと、驚いた、と心底からの気持ちが漏れ聞こえた。
《…奏ちゃん。恋すると男の子は変わるもんだね》
「一般的に女子向きコメントな、それ」
《いやーマジびっくり!
他人から向けられる関心へも興味持つようになったんだなあ、って!》
「美音限定、な。その他大勢はやっぱ相変わらずどうでもいい」
あ、そ。
翔太はまた笑う。
そうして 奏成の解釈は間違ってないよ、と優しく肯定してくれた。
奏成。
一気に真剣味を帯びた翔太の声。
俺は何とはなしに起き上がる。
《…美音ちゃんへ好意を抱いてたのはホント。けど》
「けど?」
《美音ちゃんの視線の先にはいつも、奏成が居た。
鈍感過ぎるお前にちょっとムカついてた》
「…悪かった」
《わー、すっげえ貴重!奏ちゃんに謝られた!
ちょ、録音するからも1回言って!》
「じゃあな」
