…そうだよな。
そうだよ。
昨日の今日だよ、この激変。
そんな経緯、お袋へは説明せずともどうせあの親父からバラされる。
1ヶ月前。
俺はどんな風に美音を見てたんだろう。
いや、違うな。
見ては、なかった。
何にも、関心がなかったんだから。
ただ毎日を、ボンヤリと過ごしていただけ。
重いネコを巧みに操って。
クリスマスパーティーでもしようと思ったのに!とため息混じりに言いながら皿や箸を片づけるお袋を手伝い、すみません、と丁寧に頭を下げる美音。
いや、お前が謝んなくてもいいから、そこ。
しかもそんなマシンガントークに真剣につき合ってやる必要ないから。
「お袋、喋りすぎなんだよ。美音に練習させないと」
「ああ!ごめんね?美音ちゃん!
美味しいの用意しとくから、またおやつの時間にね!」
…何、約束 取りつけてやがんだ。
どうせあれだろ、姉貴と違って美音は大人しいから。
一方的な話し相手に丁度良いとか思ってんだろ。
行くぞ、と美音の背を押し、お袋へ冷えた視線を据え置くと肩を竦めながら大仰に怖がるそぶりを見せる。
ほんっとに。
歳とると一律ああなるのか、女は。
「無理してつき合うことないんだぞ」
「…どういう、意味?」
「うるさいだろ?うちのお袋…姉貴とのマシンガントークなんかもうすごい騒音」
ふ、と風のような音がした。
相変わらずの右後方で、美音が柔らかく優しく笑っている。
…本当に、お前さ。
俺絡みでもそんな風に笑ってくれねえの?
「…私の、お母さんは。あんまり喋らない、のね…だから。
楽しい、と思うわ」
「…そうか。ならいいけど」
俺と、居ても。
楽しいと、思ってるか?
…なんて。
何だ、これ。
俺らしからぬ思考に自嘲しながら、また重いドアを開けた。
じゃあまたおやつの時間に。
そう言って美音から目を逸らそうとした瞬間。
俺はまた、美音の顔を覗き込む。
「…笑った?」
「あっ!ごめ…っ」
「何がおかしい?」
今、間違いなく。
美音は笑っていた。
掌でそんな口元覆ったら見えないだろ。
俺はゆるりと美音の手を解こうとする。
ふいに触れられた驚きの表情は状況についていけなかったらしく、美音の綺麗な顔には笑窪が残っていた。
「…ご、めんなさい、その」
「何が、おかしかった?」
「…あい」「やり直し」
お前 今、相澤くん、って言おうとしただろ。
反射にしとけ、って。
脊髄 鍛えろ、って。
またこの間が長いな。
「…か、なるくん…と、おやつって…何か、こう…。
アンバランスでかわ…お、おかしかった、です」
「何だそれ。俺だって人の子だぞ」
「ああ、うん!勿論!それは、分かってる!」
必死の様相で謝り説明し訂正する美音の顔からは、いつしか笑窪が消えている。
チ。失敗した。
もっと、見ておきたかったのに。
俺は離せないでいた美音の手を取り、ピアノの前へと移動する。
美音の華奢な肩をやんわり押して座らせると、俺は脚を広げ跨った。
「美音」
「………」
「返事」
「……はい」
「え。なんで」
じっと見つめていた美音の双眸から次から次に溢れる涙。
どうして。
俺、名前呼んだだけじゃね?
「…っ、ど、してそんな、簡単に、呼べる、の…っ?」
名前、と。
嗚咽の合間に囁かれた。
…名前を、簡単に呼べる、って。
いや、簡単じゃねえよ、お前。
知らないだけだろ、俺の心拍数。
でもそれで涙 流されてる、ってどうして。
いつもならきっと面倒くさいと捨て置ける些抹さも相手が美音なら話は別。
「…あ、相澤、くんはっ…も、モテるからっ…!
へい、平気だろう、けどっ…」
「アホか。勝手に決めつけんな」
しかもまた“相澤くん”に戻ったし。
興味無いヤツから告られてもこっちだって困るし。
断りの一言も結構 気ぃ遣うし。
それでモテる認定されても知らね、っつー話だよ。
「…っ、だっ、て!せ、生徒会、の…彼女、だって…ほか、他に、も…噂、たくさん…」
「俺、否定しなかったか?彼女なんざいた試しがねえよ。
お前が初めてだし、噂なんか信じんな、ボケ」
…噂、ねえ。
他人に関心が無い代わりに俺自身へ向けられる関心へも無頓着だったけど。
そういう感じに、なってんのか。
ああ、だから。
伊野から受けたスケコマシ発言?
「な、馴れてる、もんっ…無理だもん…私っ…!
す、好き、すぎてっ…よ、呼べない、よ…っ」
「……え」
「……っ、く……え?」
「……美音。今。好き、っつった?」
そうだよ。
昨日の今日だよ、この激変。
そんな経緯、お袋へは説明せずともどうせあの親父からバラされる。
1ヶ月前。
俺はどんな風に美音を見てたんだろう。
いや、違うな。
見ては、なかった。
何にも、関心がなかったんだから。
ただ毎日を、ボンヤリと過ごしていただけ。
重いネコを巧みに操って。
クリスマスパーティーでもしようと思ったのに!とため息混じりに言いながら皿や箸を片づけるお袋を手伝い、すみません、と丁寧に頭を下げる美音。
いや、お前が謝んなくてもいいから、そこ。
しかもそんなマシンガントークに真剣につき合ってやる必要ないから。
「お袋、喋りすぎなんだよ。美音に練習させないと」
「ああ!ごめんね?美音ちゃん!
美味しいの用意しとくから、またおやつの時間にね!」
…何、約束 取りつけてやがんだ。
どうせあれだろ、姉貴と違って美音は大人しいから。
一方的な話し相手に丁度良いとか思ってんだろ。
行くぞ、と美音の背を押し、お袋へ冷えた視線を据え置くと肩を竦めながら大仰に怖がるそぶりを見せる。
ほんっとに。
歳とると一律ああなるのか、女は。
「無理してつき合うことないんだぞ」
「…どういう、意味?」
「うるさいだろ?うちのお袋…姉貴とのマシンガントークなんかもうすごい騒音」
ふ、と風のような音がした。
相変わらずの右後方で、美音が柔らかく優しく笑っている。
…本当に、お前さ。
俺絡みでもそんな風に笑ってくれねえの?
「…私の、お母さんは。あんまり喋らない、のね…だから。
楽しい、と思うわ」
「…そうか。ならいいけど」
俺と、居ても。
楽しいと、思ってるか?
…なんて。
何だ、これ。
俺らしからぬ思考に自嘲しながら、また重いドアを開けた。
じゃあまたおやつの時間に。
そう言って美音から目を逸らそうとした瞬間。
俺はまた、美音の顔を覗き込む。
「…笑った?」
「あっ!ごめ…っ」
「何がおかしい?」
今、間違いなく。
美音は笑っていた。
掌でそんな口元覆ったら見えないだろ。
俺はゆるりと美音の手を解こうとする。
ふいに触れられた驚きの表情は状況についていけなかったらしく、美音の綺麗な顔には笑窪が残っていた。
「…ご、めんなさい、その」
「何が、おかしかった?」
「…あい」「やり直し」
お前 今、相澤くん、って言おうとしただろ。
反射にしとけ、って。
脊髄 鍛えろ、って。
またこの間が長いな。
「…か、なるくん…と、おやつって…何か、こう…。
アンバランスでかわ…お、おかしかった、です」
「何だそれ。俺だって人の子だぞ」
「ああ、うん!勿論!それは、分かってる!」
必死の様相で謝り説明し訂正する美音の顔からは、いつしか笑窪が消えている。
チ。失敗した。
もっと、見ておきたかったのに。
俺は離せないでいた美音の手を取り、ピアノの前へと移動する。
美音の華奢な肩をやんわり押して座らせると、俺は脚を広げ跨った。
「美音」
「………」
「返事」
「……はい」
「え。なんで」
じっと見つめていた美音の双眸から次から次に溢れる涙。
どうして。
俺、名前呼んだだけじゃね?
「…っ、ど、してそんな、簡単に、呼べる、の…っ?」
名前、と。
嗚咽の合間に囁かれた。
…名前を、簡単に呼べる、って。
いや、簡単じゃねえよ、お前。
知らないだけだろ、俺の心拍数。
でもそれで涙 流されてる、ってどうして。
いつもならきっと面倒くさいと捨て置ける些抹さも相手が美音なら話は別。
「…あ、相澤、くんはっ…も、モテるからっ…!
へい、平気だろう、けどっ…」
「アホか。勝手に決めつけんな」
しかもまた“相澤くん”に戻ったし。
興味無いヤツから告られてもこっちだって困るし。
断りの一言も結構 気ぃ遣うし。
それでモテる認定されても知らね、っつー話だよ。
「…っ、だっ、て!せ、生徒会、の…彼女、だって…ほか、他に、も…噂、たくさん…」
「俺、否定しなかったか?彼女なんざいた試しがねえよ。
お前が初めてだし、噂なんか信じんな、ボケ」
…噂、ねえ。
他人に関心が無い代わりに俺自身へ向けられる関心へも無頓着だったけど。
そういう感じに、なってんのか。
ああ、だから。
伊野から受けたスケコマシ発言?
「な、馴れてる、もんっ…無理だもん…私っ…!
す、好き、すぎてっ…よ、呼べない、よ…っ」
「……え」
「……っ、く……え?」
「……美音。今。好き、っつった?」
