「…ちょっと…」
“奏成くん、出てこられる?”
美音からの誘いにのらない訳ねえじゃん。
つか、何なの。
具合悪くなったりしてんじゃねえの。
何故だかひどく心細さを感じて、心臓がトク、と高鳴り始めた。
転びそうになりながら段差の低い階段を飛ぶように上る。
「…あ、奏成くん」
ビロード地の遮光カーテンを押し退け重い扉を力まかせに突っ張った先に、ほわんと微笑む美音がいた。
…うわ。なんだ。
また心臓がトク、と鳴った。
「…どうしたよ?時間、大丈夫なのか?」
出場者は朝の打合せが終わるや控室に連れて行かれ、そのまま自分の出番まで待機のはず。
リハーサル室にはピアノが置いてあって練習しようと思えばできるし、飲食やトイレは自由らしいけど。
こんな…ほっつき歩いて。大丈夫なのか?
「…ちょっと、ね?効き目がきれてきたみたいで」
「効き目?」
「…もう一度、くれないかなあ、と。
思って…“頑張れ”」
俺は察しが良いからさ。
美音が“頑張れ”と口にした時にはもう美音との距離を詰めていて、両の手で細い肩を引き寄せた。
エントランスホールとそこに続くロビー付近に人影はまばら。
とはいえ関係各位に応援の範疇を超えると誤解されるような行動は慎まないとね。
そこで、気づいたんだ。
そうしてなきゃ、気づけなかったんだ。
美音が小さく震えていること。
「美音…?」
「…大丈夫。ちょっと、寒いだけ」
んなわけあるか。
なんて軽口をこの期に及んで絶妙に繰り出せるほど俺はカッコよくデキた男じゃなかった。
…何だろう、壮絶に情けなくなって。
膝を屈め美音の目線に俺のそれを合わせる様さえぎこちなくなる。
「…ごめんな?」
「…奏成くん?」
「こんな時 何してやりゃいいのか…分かんねえよ、ごめんな俺がこんなんで」
自信たっぷりに頑張れ、って。
大丈夫だ、って。
自分はキラキラ星のひとつも弾けないくせに、ひどく上からのそんなセリフ吐いて。
それでも、間違ってるなんて思わなかった。
人は断定的な物言いに時として安堵感を得る。
俺の存在価値なんて、そこじゃねえの?今日。
「…楽譜のさ、あそこをこう弾いたらもっと良い、なんて具体的なアドバイスなんか出来やしねえし」
「でも昨夜、ずーっと聴いてくれてたんでしょ?CD」
言われてそうだったと気づく。
耳の中に今も残る課題曲に不安要素はひとつも無くてだからこそのエラソ発言だった訳だけど。
俺のヘコみ具合にすぐ気づいてくれんのな、美音。
何てことない会話。迫り来る休憩時間の終わり。
こんな。
美音に気 遣わせてる場合じゃないのに。
「どの曲が好き…とか。あった?」
「…そりゃあ…全部」
「え…そ、なの?」
「美音だから。どの曲もどんな音も」
“奏成くん、出てこられる?”
美音からの誘いにのらない訳ねえじゃん。
つか、何なの。
具合悪くなったりしてんじゃねえの。
何故だかひどく心細さを感じて、心臓がトク、と高鳴り始めた。
転びそうになりながら段差の低い階段を飛ぶように上る。
「…あ、奏成くん」
ビロード地の遮光カーテンを押し退け重い扉を力まかせに突っ張った先に、ほわんと微笑む美音がいた。
…うわ。なんだ。
また心臓がトク、と鳴った。
「…どうしたよ?時間、大丈夫なのか?」
出場者は朝の打合せが終わるや控室に連れて行かれ、そのまま自分の出番まで待機のはず。
リハーサル室にはピアノが置いてあって練習しようと思えばできるし、飲食やトイレは自由らしいけど。
こんな…ほっつき歩いて。大丈夫なのか?
「…ちょっと、ね?効き目がきれてきたみたいで」
「効き目?」
「…もう一度、くれないかなあ、と。
思って…“頑張れ”」
俺は察しが良いからさ。
美音が“頑張れ”と口にした時にはもう美音との距離を詰めていて、両の手で細い肩を引き寄せた。
エントランスホールとそこに続くロビー付近に人影はまばら。
とはいえ関係各位に応援の範疇を超えると誤解されるような行動は慎まないとね。
そこで、気づいたんだ。
そうしてなきゃ、気づけなかったんだ。
美音が小さく震えていること。
「美音…?」
「…大丈夫。ちょっと、寒いだけ」
んなわけあるか。
なんて軽口をこの期に及んで絶妙に繰り出せるほど俺はカッコよくデキた男じゃなかった。
…何だろう、壮絶に情けなくなって。
膝を屈め美音の目線に俺のそれを合わせる様さえぎこちなくなる。
「…ごめんな?」
「…奏成くん?」
「こんな時 何してやりゃいいのか…分かんねえよ、ごめんな俺がこんなんで」
自信たっぷりに頑張れ、って。
大丈夫だ、って。
自分はキラキラ星のひとつも弾けないくせに、ひどく上からのそんなセリフ吐いて。
それでも、間違ってるなんて思わなかった。
人は断定的な物言いに時として安堵感を得る。
俺の存在価値なんて、そこじゃねえの?今日。
「…楽譜のさ、あそこをこう弾いたらもっと良い、なんて具体的なアドバイスなんか出来やしねえし」
「でも昨夜、ずーっと聴いてくれてたんでしょ?CD」
言われてそうだったと気づく。
耳の中に今も残る課題曲に不安要素はひとつも無くてだからこそのエラソ発言だった訳だけど。
俺のヘコみ具合にすぐ気づいてくれんのな、美音。
何てことない会話。迫り来る休憩時間の終わり。
こんな。
美音に気 遣わせてる場合じゃないのに。
「どの曲が好き…とか。あった?」
「…そりゃあ…全部」
「え…そ、なの?」
「美音だから。どの曲もどんな音も」
