ありがとね、とクツクツ笑いの中から途切れた感謝が届けられる。
いや、何ですか。
何に対するありがとう、ですか。
どういたしまして、なんてそぐわない。
「美音のこと、そんな真剣に考えてくれて。
本当に親冥利に尽きるというか」
「あー…いえ。あの…」
ここぞという時にしどろもどろな自分に腹が立つけれど。
じゃあ、誰か教えてくれ。
もう、何て返したらいいんだ。
重い重いネコちゃんをかぶっていた頃の俺にだって分からないだろ。
視線を知らず俯けた先にある、四角い枠の中の俺の手。
何を語ってる訳でもない。
それでもこれが夜ごと、美音に某かの力を与えていたのならば。
必ずしも、言葉だけじゃない。
言葉に出来ない感情の機微はきっと俺のあちこちから滲み出てるはずだと信じたい。
何となく、時間をただ過ごしていた空っぽの俺とは違うんだから。
「…高校生同士のおつき合い、とかって。
今ドキはどうなんだろう、って心配してたのね、実を言うと」
「…はい」
「自分は美音と同じくらいの時に“この人について行こう”って決めたくせにね。
どうにも子ども扱いしちゃって」
駄目ね。
さっきまでの明るく弾むような笑いはすうっと吸い込まれ、代わりに美音のお母さんの顔には少し苦々しい笑いが浮かんだ。
組んでいたお母さんの腕が不意に伸びてきて、俺の手からフォトフレームを攫って行く。
じっと見つめているその先にどんな言葉が続くのか。
美音が起きてくる気配は相変わらず一向に無い。
「…明日、美音 優勝しちゃったら。
どこに行っちゃうんだろ」
俺は攫われたフォトフレームを目で追って何となくお母さんの手元を見つめていたんだけど。
視界の真ん中にお母さんを捕えた。
ああ、そうなのか。
美音に一番近い人だってそうなのか。
「…俺も。
ここんとこ、同じ様なこと考えてます。
なんか…その先の、世界なんて。
俺は知らないから」
勿論 優勝はして欲しい、と心底からの言葉も慌ててつけ加える。
分かってるわよ、と見透かすように返ってきた言葉が俺の口角をほんの少し緩ませた。
「ちょっと怖いよね」
「…ですね」
「でも前日にずっこけるあたりが美音っぽくて安心した」
「安心、て」
「だって私の娘がそんな完璧なワケないもの」
美音の部屋へと、お母さんが向ける視線はとても優しい。
俺もそんな光を瞳に宿せたらいいのに、と思う。
根が自己中心的な俺にとってはまだまだ達観できない境地。
「明日、ですね」
「明日、ね、市民ホールで。
あ、今日 起きたら必ず連絡させるから」
あの調子だと何時になるか分からないけど。
俺はお母さんの肩越しに美音の部屋を見遣る。
靴を履きながら お願いします、と静かに笑った。
いや、何ですか。
何に対するありがとう、ですか。
どういたしまして、なんてそぐわない。
「美音のこと、そんな真剣に考えてくれて。
本当に親冥利に尽きるというか」
「あー…いえ。あの…」
ここぞという時にしどろもどろな自分に腹が立つけれど。
じゃあ、誰か教えてくれ。
もう、何て返したらいいんだ。
重い重いネコちゃんをかぶっていた頃の俺にだって分からないだろ。
視線を知らず俯けた先にある、四角い枠の中の俺の手。
何を語ってる訳でもない。
それでもこれが夜ごと、美音に某かの力を与えていたのならば。
必ずしも、言葉だけじゃない。
言葉に出来ない感情の機微はきっと俺のあちこちから滲み出てるはずだと信じたい。
何となく、時間をただ過ごしていた空っぽの俺とは違うんだから。
「…高校生同士のおつき合い、とかって。
今ドキはどうなんだろう、って心配してたのね、実を言うと」
「…はい」
「自分は美音と同じくらいの時に“この人について行こう”って決めたくせにね。
どうにも子ども扱いしちゃって」
駄目ね。
さっきまでの明るく弾むような笑いはすうっと吸い込まれ、代わりに美音のお母さんの顔には少し苦々しい笑いが浮かんだ。
組んでいたお母さんの腕が不意に伸びてきて、俺の手からフォトフレームを攫って行く。
じっと見つめているその先にどんな言葉が続くのか。
美音が起きてくる気配は相変わらず一向に無い。
「…明日、美音 優勝しちゃったら。
どこに行っちゃうんだろ」
俺は攫われたフォトフレームを目で追って何となくお母さんの手元を見つめていたんだけど。
視界の真ん中にお母さんを捕えた。
ああ、そうなのか。
美音に一番近い人だってそうなのか。
「…俺も。
ここんとこ、同じ様なこと考えてます。
なんか…その先の、世界なんて。
俺は知らないから」
勿論 優勝はして欲しい、と心底からの言葉も慌ててつけ加える。
分かってるわよ、と見透かすように返ってきた言葉が俺の口角をほんの少し緩ませた。
「ちょっと怖いよね」
「…ですね」
「でも前日にずっこけるあたりが美音っぽくて安心した」
「安心、て」
「だって私の娘がそんな完璧なワケないもの」
美音の部屋へと、お母さんが向ける視線はとても優しい。
俺もそんな光を瞳に宿せたらいいのに、と思う。
根が自己中心的な俺にとってはまだまだ達観できない境地。
「明日、ですね」
「明日、ね、市民ホールで。
あ、今日 起きたら必ず連絡させるから」
あの調子だと何時になるか分からないけど。
俺はお母さんの肩越しに美音の部屋を見遣る。
靴を履きながら お願いします、と静かに笑った。
