クラシック

「………」



優勝できなかった、時のこと。
俺に“落ち込んだりしないでね”と請いながらきっと自分は落ち込むのであろう、美音のお母さんの心中。
想いを添わせようとして自然 眉間に深く皺が寄った。



落ち込まずにいられるのか?
自分を責めずにいられるのか?俺は。
例えば今この時間、やっぱり無理やりにでも起こして最後に納得いくまで練習させれば良かったんじゃないか、とか。
安直に後悔するような気がした。
それはお母さんの本意じゃないのに。



もっともっと、美音のためにしてあげられたことはあったんじゃないか、と。
気が利かなかったのは俺が今までそんな生き方をしてこなかったからだ、と。
悔しさは俺自身をどこまでも遡りそうな気さえしてくる。



「…旦那から、よく言われてたんだけど」

「…はい」

「結果がダメで、一緒に落ち込まれるより。
“頑張ったね”の方が嬉しい、って」

「…ですか」

「ま、結局 大成しなかった人の言葉だけどね」

 

まるで。
一緒に笑ってよ、とでも誘うようにお母さんは腕を組んだ前屈みの身体を近づけ、俺の顔を覗き込む。
軽々しく笑える訳なんてない。
だからね、と続いたお母さんの言葉に俺は息をのんだ。



「ただ、好きでいてくれない?美音のこと」

「はい」



間髪入れずの即答だ。
当たり前だ。
お母さん、何を今さら。
俺は何か試されてるんでしょうか。
そりゃあ、一寸先は闇って言葉もあるけれど。
自分の未来の気持ちひとつ、自信持てなくてどうすんだっての。



「駄目になんて、なって欲しくないの、2人には」

「…はい」



はい、とは応えたものの。
美音のお母さんが指す“駄目”ってのは。
…あんまり、考えたくもないんだけど、あれか。
別れてしまう、って解釈で間違ってないんだろうか。



「大人になったって、落ち込んでる誰かを慰めたり励ましたりするのって難しいわ。
ましてそれが大切に想ってる相手ならなおさら。
お酒飲んでパーッと、なんて典型的リーマンの手法は的外れもいいとこだし」



俺はコクリと首肯する。
もしも、結果が良くなかった時に美音がどうなっちゃうかなんて想像すらしたくないけど。



俺が慰めたいし励ましたいとそれは躍起になることだろう。
とはいえそれが美音の胸中にピタリと添えるかどうかなんて…分からないし。



美音は美音で気を遣って欲しくないと気を遣うだろうし。
それで気疲れしちゃって変な雰囲気になったりとか。
うわ、喧嘩とかすんのかな。
どうすりゃいいんだよ、って逆ギレの俺に泣いてごめんなさいと謝る美音の構図。



あーやだやだ、そんな負のループ。
考えんのもやだ。
ポジティブシンキングでなきゃ。
俺の思考は表情筋と連動して百面相だったんだろう、いつしか美音のお母さんの笑いを誘っていた。