クラシック

「…おう。
何でもやるよ。何がいい?
何して欲しいんだ?」



不甲斐ない俺の笑みはきっと美音ほど澄んでいない。
内なる卑屈さは俺を暗く歪ませているだろう。
美音は気づいているのか、気づきながらも知らぬふりをしてそうして。
こんな優しさで俺をふわりと包み込む。
痛み疼く指先だけじゃなくて。



「…じゃあ」

「!」

「…一緒に、寝て?」



ここで。少しの間だけでいいの。

…いやもう。
コンタクトがすっかり乾ききるかと思うほど瞠目してしまいますって。
まさかさっきの奏ちゃんバク話なんざ信じちゃいねえだろうけど。
お前、何なのその。
もんのすごい誘い文句。
そうだろ?誘われてるだろ?
これ妄想なしにどうやって通常運行に戻ればいいわけ?
悪夢たいらげるだけじゃなくてちょっといろいろ操りたくなる。



「よし、美音。
もちっと詰めろ、壁際に寄れ」

「…や、奏成くん?
それはさすがに無理がある…」



分かってるよ、冗談だって。

注射針もあんだし、そんな無茶させるワケねえだろ。
だからな、せめてこの。
デコとデコがくっつく距離で。
俺は真っ白なシーツへ頭を乗せ美音の顔近くに寄った。
途端に大きな瞳をくるりと取り囲む肌色が薄いピンク色へ変わる。



確かに。
今の美音に足りないのは栄養と安眠。
栄養はまさに1滴ずつ、体内へ順調に取り込まれているところ。
安らかな眠りの提供を、大好きな子から請われている俺。



…美音。
俺、お前のそういう秘めた優しさ。
すっげー、好き。
分かりづらいから分かった時にすっげー嬉しくなんだな。
そんでエラソ王子の俺のこと、すっげー好い気分にさせてくれんのな。



「…美音なあ。さっきの“じゃあ”だけど」

「…特許権の侵害?」

「…いや。免許皆伝」



おやすみ。

ふ、と笑みを残し美音は瞼をゆるりと閉じた。
カテーテルが捩れないよう美音の左手をそっと体側へ添わせ置く。
右手は俺の左手と絡ませて、身体が冷えないよう胸元までかけた布団の上へ。
俺の右手は美音の頭をゆるゆる撫で続ける。



流れゆく、静かな時間。
滴り落ちる液の水音さえ聞こえてきそうだ。
運河のほとり。
そうだ、あの景色。
俺様が見せてやるよ。
美音の夢の中でな。
だからゆっくり眠れよな。


…あー、俺まで眠くなってきた。
睡魔、ってのは伝染力あるよな。
眠り姫を目覚めさせるのは王子様のキスだって。
いつだって決まってんのに。
そんくらい、カッコつけさせてくれ。