美音ってちょっと、アホの子かもしれない。
何だかなあ、その低画素ガラケーカメラで撮ってもキメは粗いし再現力も足りないだろ。
ちょ、お前、そんなブルブル震えてるけど手ブレ補正機能 付いてんだろうな?
そもそもピントは合ってんのか?
俺はパンツのポケットから取り出したスマートフォンを美音へ手渡す。
「それでも撮っとけよ。
オートフォーカス、縦横手ブレ補正機能付き、勝手に連写してベストショット決めるからな。
んで、やるよ」
「え」
「拡大してラミネート加工でもしてやんよ。
他は?何がいいんだ?
キーホルダーにしていっつも持ち歩く?
それとも実物大フィギア作って毎日拝むか?」
奏成くんが口にするともれなく実現しそうだ、と。
美音は上気した顔で瞳を潤ませながら照れくさそうに言う。
こっち見ろよ、美音。
携帯電話のディスプレイ眺めてたって、その手はお前の頬っぺた こんな風に優しく撫でたりしねえんだぞ。
「…美音のためだったら何だってしてやるよ。
…いや、違うな」
してやる、とかって。
上からでも俺様でもないんだ。
何だろうな、この。
俺、こんな感情持ってたんだ、って。
気づかせてくれた美音へ感謝したい。
愛おしくて慈しむ気持ち。
きっと美音と出逢わなければ、俺はいくらポテンシャルが高くても発揮できないまま終わってた残念なヤツだった。
…ああ、こういうの自分で言っちゃうあたりが残念なんだな、既に。
「…本物を。
しっかり…目に、焼き付けます」
「不吉な。
何を今日を限りに、みたいなこと」
「それでも、きっと足りないから。
…ずっと」
いつまでも、傍にいて下さい。
目も合わせずに消え入るような美音の言葉は震えて掠れて頼りなくて。
それでもちゃんと聴こえたんだ。
俺って耳は良いからさ。
ってんじゃなく、美音からの“ずっと”なんて。
俺が一番欲しかったもの。
聴き逃すはずが無いんだよ。
まあ、その後。
俺が美音を腕の中へすっぽり包み込んだのは言うまでもない。
美音先生のピアノ教室はなかなか開講しなかった。
「手はふんわり置いて…そう、力 入れないでね。
割れそうな卵を持ってる感じで」
「いや、卵は大抵割れるよな?」
「手首は動かしちゃ駄目です」
「…スルーか」
モーツァルトのキラキラ星協奏曲、なんだって。
俺に教えてるこの曲。
簡単そうに聴こえたけど、実はかなりのテクニック要るじゃん、美音。
「やっぱ無理だろ。
タカタカターンタターン、が出来ねーよ」
「ふふ。トリル、ね」
「…んだと?馬鹿にしてんのか」
美音の緩んだ横顔を恨めしげに見つめて頬っぺたをつねった。
それでもまだ美音は顔中に笑みを浮かべていて、見るからにご機嫌だ。
「私もね、ちっちゃい頃 そんな風に言ってたなあ。
先生、タカタカターンタターンができません、って」
「…んだと?誘ってんのか」
「…意味が分かりません」
だって何かムラッとくんじゃん。
いや、イラッと、か?
お前、俺自身と俺の手とどっちが好きなんだ?
なんて愚問だと分かっちゃいるけど。
今一度、きちんと確かめさせて欲しくなるほど熱い視線が注がれている。
「指はちょっと立てて弾いてね?
寝かせすぎないで…ド、ド、ソ、ソ…うん、上手」
「俺、褒められて伸びるタイプなんだよなあ」
「小指の爪まで綺麗なのね…」
「いやそこ褒められるんじゃなくてな?」
「1オクターブ、ゆうに届くね」
「ちょ、聞け人の話」
主旋律をたどたどしく奏でる。
ド、ド、ソ、ソ、ラ、ラ、ソ。
美音って歌も上手いのかも。
音程を微塵も外すことなく口ずさむ甘い声と鍵盤の白の動きがリンクして、俺はとても心地好かった。
何だかなあ、その低画素ガラケーカメラで撮ってもキメは粗いし再現力も足りないだろ。
ちょ、お前、そんなブルブル震えてるけど手ブレ補正機能 付いてんだろうな?
そもそもピントは合ってんのか?
俺はパンツのポケットから取り出したスマートフォンを美音へ手渡す。
「それでも撮っとけよ。
オートフォーカス、縦横手ブレ補正機能付き、勝手に連写してベストショット決めるからな。
んで、やるよ」
「え」
「拡大してラミネート加工でもしてやんよ。
他は?何がいいんだ?
キーホルダーにしていっつも持ち歩く?
それとも実物大フィギア作って毎日拝むか?」
奏成くんが口にするともれなく実現しそうだ、と。
美音は上気した顔で瞳を潤ませながら照れくさそうに言う。
こっち見ろよ、美音。
携帯電話のディスプレイ眺めてたって、その手はお前の頬っぺた こんな風に優しく撫でたりしねえんだぞ。
「…美音のためだったら何だってしてやるよ。
…いや、違うな」
してやる、とかって。
上からでも俺様でもないんだ。
何だろうな、この。
俺、こんな感情持ってたんだ、って。
気づかせてくれた美音へ感謝したい。
愛おしくて慈しむ気持ち。
きっと美音と出逢わなければ、俺はいくらポテンシャルが高くても発揮できないまま終わってた残念なヤツだった。
…ああ、こういうの自分で言っちゃうあたりが残念なんだな、既に。
「…本物を。
しっかり…目に、焼き付けます」
「不吉な。
何を今日を限りに、みたいなこと」
「それでも、きっと足りないから。
…ずっと」
いつまでも、傍にいて下さい。
目も合わせずに消え入るような美音の言葉は震えて掠れて頼りなくて。
それでもちゃんと聴こえたんだ。
俺って耳は良いからさ。
ってんじゃなく、美音からの“ずっと”なんて。
俺が一番欲しかったもの。
聴き逃すはずが無いんだよ。
まあ、その後。
俺が美音を腕の中へすっぽり包み込んだのは言うまでもない。
美音先生のピアノ教室はなかなか開講しなかった。
「手はふんわり置いて…そう、力 入れないでね。
割れそうな卵を持ってる感じで」
「いや、卵は大抵割れるよな?」
「手首は動かしちゃ駄目です」
「…スルーか」
モーツァルトのキラキラ星協奏曲、なんだって。
俺に教えてるこの曲。
簡単そうに聴こえたけど、実はかなりのテクニック要るじゃん、美音。
「やっぱ無理だろ。
タカタカターンタターン、が出来ねーよ」
「ふふ。トリル、ね」
「…んだと?馬鹿にしてんのか」
美音の緩んだ横顔を恨めしげに見つめて頬っぺたをつねった。
それでもまだ美音は顔中に笑みを浮かべていて、見るからにご機嫌だ。
「私もね、ちっちゃい頃 そんな風に言ってたなあ。
先生、タカタカターンタターンができません、って」
「…んだと?誘ってんのか」
「…意味が分かりません」
だって何かムラッとくんじゃん。
いや、イラッと、か?
お前、俺自身と俺の手とどっちが好きなんだ?
なんて愚問だと分かっちゃいるけど。
今一度、きちんと確かめさせて欲しくなるほど熱い視線が注がれている。
「指はちょっと立てて弾いてね?
寝かせすぎないで…ド、ド、ソ、ソ…うん、上手」
「俺、褒められて伸びるタイプなんだよなあ」
「小指の爪まで綺麗なのね…」
「いやそこ褒められるんじゃなくてな?」
「1オクターブ、ゆうに届くね」
「ちょ、聞け人の話」
主旋律をたどたどしく奏でる。
ド、ド、ソ、ソ、ラ、ラ、ソ。
美音って歌も上手いのかも。
音程を微塵も外すことなく口ずさむ甘い声と鍵盤の白の動きがリンクして、俺はとても心地好かった。
