「何 教えてくれる?」
2人がゆうに座れる椅子なのにそれでも美音は左の端へちょこんと陣取っている。
まるで顔中の熱を放出したいとでも言うように、ひんやりとした鍵盤の蓋へおでこをぺたりとくっつけて。
…何これ。また可愛いっつの。
さっき俺がふわふわに解いた髪の毛が美音の横顔を隠している。
勿体なさすぎて手を梳き入れ耳にかけると、まだまだ真っ赤に茹で上がった肌が現れた。
「大概 恥ずかしがりだなあ、美音」
「…あ、私?私なんだ?
私がオカシイんだ?
あくまで奏成くんは普通のラインに居るんだ?」
「珍し。美音がキレそう」
ケタケタと笑えば、本当に血管切れるよ!とピンク色に落ち着いてきた頬をチラリと俺に見せ、潤んだ瞳で恨めしげに見上げられた。
眉間に超 シワ寄ってるけど。
たまんないね、これ。
美音のこと、クルクル踊らせてる感じじゃね?
ドカリと椅子へ跨がって美音を覗き込むと、ただでさえ大きな瞳がまたさらに見開かれる。
もっと、見せて。
いろんな顔。
もっと、聴きたい。
いろんな声。
貯めこんでおかないと、俺はすぐ美音が足りなくなる。
好きな子と近いと、やっぱヤラシイ方面へ暴走しそうになんのな。
何が何でも抑え込むけどさ。
チロッとでも嫌がられたらきっと、相当、間違いなく、これでもかってくらい、ヘコむもん。
「…え、と。何が、いいかなあ。
猫ふんじゃった、は?」
「いきなり両手かよ?ハードル高っ!
出来ない子の気持ちも考えてだなそこは」
「…あ」
おもむろに美音は顔を上げ鍵盤の蓋を開け、口元を綻ばせながら両の手をふわりと鍵盤の上へ置いた。
間近で見るあまりに流麗な指の動きにぼんやりする。
誰しも一度は耳にした覚えがあるその曲は、けれどどこか華やかさが加わって、美音の周りに星を降らせた。
奏成くん?とかえって覗き込まれた拍子に意識が戻る。
「…お気に召しませんでした?」
「何だ?その可愛さ。襲って欲しいのか?」
「…会話しよう?会話。ちゃんと」
照れてるのかそれを堪えようとしているのか。
また忙しく変わる美音の表情に緩む口元が抑えられない。
右手だけな、と教えを請うために鍵盤の上へ手をかざす。
…うっわ。
何年振りだろう、この感覚。
「なあ、聴いた覚えあるけどさっきの何て曲?
きらきら星っぽい…って、美音?」
「…あ」
手か。
お前、今ものすっごくガン見してたな。
熱かったし痛かったぞ。
いや、何 慌てて真面目取り繕おうとしてんの。
しかも何 おずおずと携帯電話取り出してんの!
「…か、奏成くん…っ!
私もう、我慢できない…!」
「おーまーえーなーっ!
使い方間違ってんだろーがっ!」
そんな!そんな悶絶セリフ!
美少女がふっくら唇ふるふるさせて!
でもいろいろ間違ってんだよ!
目線も仕草も小道具も!
残念だ!
「写真、撮らせて下さい!」
「や、顔ガン無視でそんなん言われたの初めてだわ!」
「手、だけでいいんですけど…」
「そんなんもっとねえよ!」
