クラシック




これさ、もう。
いけんじゃねえの。
横向きに流れていた美音の脚は、俺が隣に並び座った時点ですらりと前へ伸ばされている。



…ということは、ね。
こう…膝、というかそのもう少し上のとこへ、頭を、ね。



お泊りしない美音へ“腕枕”は消えちゃったからな。
代替案としていただいていいだろ。
勿論、途中で嫌がられたら止めるし、と言い訳がましく心中で呟きながら、けれどこれだけ集中してればなし崩し的にいけんじゃね?という姑息な目論見もあった。



…うっわ。柔らかい。
美音ってどちらかと言えばガリガリかと思ってたけど、さすがに太腿んとこはやわやわしてんだな。
気持ちいいー。何だこれ。
この肌触りの良いスカートの生地もグッジョブだ。



「………」



真下から見上げる美音は、俺の所業に気づいていない。
いや、何か乗ってるな、という感覚はあるんだろうけど、意識への働きかけとして結びついてないんだろう。
視線は遠く、どこかの景色を見つめ。
真っ白な肌は変わらず真っ白なままだ。
これ、バッチリ目が合ったらどれだけゆでだこみたく真っ赤に染め上るんだろう。
見てみてえ。



無駄のない、美少女の輪郭はどの角度から見ても綺麗だ。
当たり前だけど細い首には喉仏なんてなくて。
些細なことなのに絶対的な男女の差を感じて、守ってやりたいと一層の庇護欲が掻き立てられた。





そうしているうちに旅する先は。
『Les berges du canal』



愛されちゃってんな、俺。
緩んだ俺の表情はきっと、他人様に見せちゃいけない類だろうな。






「…る、…ん…奏成くん?」



遠くから美音に呼ばれてる。
てか今、俺 何してんだろ。
手 繋いで、からの膝枕成功だったはず。
靄がかかったようにボンヤリした頭は上手く回転してくれない。



「…マジか。寝てた?俺」

「うん。
ごめんね、気持ち良さそうだったんだけど」



時間が勿体ないかと思って。

さすがに目は合わせらんないんだな、美音。
…まあ、いいけど。
俺との今日1日、そこそこ楽しんでんだよな?
そういう、発言だよな?
都合良く解釈するんだぞ、俺は。



「…ん。起こして、美音」

「え。頭 上がらないの?」



目のやり場に困っている様子が面白くって仕方ない。
面白い、っつーか面映ゆい?
俺の後頭部へ片手を回し よいしょ、と持ち上げようとする。
バッカ、そうじゃねえっての。



「何それ、お前。わざと?確信犯?」

「…え、だ、って。起こす…」

「違うって」



ちょっと無理のある体勢だけどな。
俺は繋いでいない方の手を美音の首元へ回すと、美音のちっちゃな頭ごと俺へ引き寄せた。
やっぱ、柔らけーな、美音の唇。
でもごめんな、前かがみで窮屈だろ。
俺も腹筋が超絶苦しいんだけど。
いや、ナシな、もうこれ。



「起こして、っつったら古今東西キスに決まってんだろ」

「…えー、聞いた覚えは一切ございません…」

「へえ?おっかしーな」



俺が手を離した隙に美音は真っ赤な顔を見られまいとするかのように両手で覆い隠してしまった。
でも、見えてんぞ。
ニヤリと笑いながら上体を起こした俺を、指と指の隙間から覗いてんだろ。



「さて、と。
ピアノ部屋に行きますか」