クラシック

も1回、と美音へ催促している真っ只中、玄関のピンポンが来客を知らせる。
…くっそ。
誰だ、こんな朝っぱらから。
宅配便ならご不在連絡票をだな…。



「…鳴ってる…」

「…おう。鳴ってんな」



あからさまにホッとした顔見せてんじゃねえよ、美音。
あまりにしつこく連打されるドアベルにほんの少し悪い予感がする。



また、和とかさ。陽人とかさ。
いや、翔太かもしれねえし。





そんな予想を裏切り、モニターの画面に現れたのはあーちゃんだった。
ごめん、すぐ開ける!と叫んで、俺は玄関に置いていた紙袋を手に門扉へと向かった。



「メリクリ」

「外見裏切る発音の悪さだよ、あーちゃん」

「うっせ、黙れ。
聖なる朝からシてたんじゃねーだろな?」

「…お待たせして申し訳ありませんでした」



金に近い明るい茶髪にグリーンのカラコンを入れたあーちゃんは、もはや日本人じゃない。
ハリウッドスター並みの麗しい見目でガハハ、と大口開けてオヤジみたく笑う姿に苦笑が漏れた。
ファンの方がご覧になったらドン引きされるよ、あーちゃん。



「これ。
奏のために超速で作って差し上げたから」



感謝しろよ、と手渡された小さな袋には正方形の見慣れた形。
CDだ。しかも、ちゃんと2枚。
いや、今日は1枚あれば良いんだけど、なんて不埒な考えは慌てて吹き飛ばした。



「うっわ!
マジ、サンキュ!あーちゃん!」



じゃ、と言い置くと早くも踵を返しかけた男前の背中をちょっと、と掴まえた。



「あーちゃん、これ。使って?」



何だよ、と訝しく問われ俺は持っていた紙袋を手渡す。
中身はあーちゃんご愛用ラインの靴。
この冬の新作。
気に入ってもらえるといいけど。
…翔太に事前リサーチ済みだから、大丈夫だと思うけど。



プレゼントを贈る、というのは俺。
貰うことより好きかもしれない。
金に物 言わせてるボンボンの悪趣味だと思わなくもないけど。
誰からも悪し様に指摘されたことがないから調子に乗ってるんだ。



「…っ、ちょ?!奏!」



紙袋を覗き込めばすぐ、イメージカラーのラッピングがあーちゃんを出迎える。
それなりの重量感と箱の形。
もう何足も持っているらしいあーちゃんなら、それが何なのか察しがつくだろう。



「や、すっげえ嬉しいんだけどさぁ。
お前の方が負担デカいじゃん!」

「んー、でもあーちゃんを拘束した時間でさ。
次の新曲が出来てたかも、って考えるとその付加価値とか相乗効果には足りないよ、きっと」



納得出来ないと言いたげに口元をへの字に曲げていたあーちゃんだけど、一旦 言い出した俺が退かないことをよく知ってる。
最後には大事にする、と停めていた愛車へ共に乗り込んでくれた。
運転席の窓から顔を出し言い添えてくる。



「単にギャラだとか言わねーところが大物になりそうだよな、奏」

「医者にはならねえよ?」



じゃあ何になるんだ?と訊かれれば今の俺なら答えは決まっている。
美音のパトロン、と至極当然とばかりに応じると意外にもなるほど、と頷かれた。



「CD作ってんの、楽しかった。
あれは…良いな。クラシック。
新しい世界が開けたわ」



あの子も大物になるんだろうな。

そう言い残してあーちゃんは打ち合わせへ出向く。
車のマフラーがふわりと吐き出した白さに空気の冷たさを思い出し、俺は慌てて家の中へ入った。