クラシック

ふかふかラグの上のローテーブルへ、カップやソーサー、カトラリーを置いていく美音の傍で俺は上品な洋菓子の包みを開けた。



「惜しげもなく開けてくね…」



そんなビリビリと、と。
また美音の勿体ないと言いたげ(言いたげ、じゃなくて言いたいんだろうな)な表情をチラと見ながらほんの少し気恥ずかしくなる。



「…苦手なんだよ、こういうの。
開ける楽しみにソワソワして丁寧にシール剥がしたりとか絶対無理」

「苦手なもの、あるんだ?」

「お前ね。
俺のこと過大評価しすぎ。
いや、気持ちは分かるけど」



またふわりと優しく微笑みながら美音はカップへ紅茶を注ぐ。
ティーポットの蓋を細い指で軽く押さえている所作は、何てことないんだろうけどやけに流麗で美しく見える。



その指は、思いもかけない世界を創り上げていく。
俺の傍らにあるそこへ連れて行ってくれる。
もうそれを、知ってしまったから。
魅力に、惹きつけられてしまうんだ。



「…お、美味そう」

「わ、貝殻みたいね」



確かに上質な箱の中でお行儀よく鎮座しているフィナンシェは、待ちかねたようにそのシェルの形を俺達へ向ける。
個包装の一つを手に取って美音へ。
受け取った美音はありがとう、と綺麗に微笑みながらもう一つ手渡される同じ包みを訝しく見つめた。



「…一つで、良いよ?」

「バッカ。空気読め」



いきなり膝枕はあれか、と思ったからこっちにしたのに。
その華奢な腰に抱きついていいなら今すぐそうしてやんぞ。



あ、と口を大きく開けた俺の姿を見て、ようやく事ここに思い至ったらしい。
次に何を求められているのか理解した美音の頬はみるみるうちに紅く染まっていった。



「早く。美音」



結構しんどいんだぞ、こっちも。
顎 はずれたらどうしてくれんだ。
しかも俺は雛鳥みたいに可愛いワケないんだから。
この待ってる間の情けない姿を自分自身で脳内シミュレーションしてみると…。



…怖っ。
客観視しない方が良いことって世の中にはあんのな。



「…言うの?」

「あん?」



何を?と問うと目を逸らし頭を抱え込んだ美音の声がもごもごと聞こえてくる。
恥ずかしさと闘ってんだな。



「…その。あーん、とか…」

「しょうがねえなあ、言いたいんだな?美音。
よしよし、そのオプション込みで頑張れ、早く」



頑張れ、って励ましも可笑しいんだけどな。
はーっ、と恥ずかしさを誤魔化すように吐く熱い息とともに、美音の白い指が伸びてくる。
お前、そんなに顔 逸らし気味で。
ちゃんと見てる?俺の口元とか。
ちょっと!まるまる1個とか!



「拷問か!ちぎれよ細かくっ!
喉 詰まるかと思ったぞ!」

「…恥ずかしい上に危険だね…。
お口あーん、ってね…」

「あっ!テメ、言わなかったじゃねーか!」



もう一回やり直し、と目を眇めながら命じると眉間に皺を寄せた美音に真剣な表情で見つめ返された。



「…あと、いくつあるんでしょうか。
…こういうの」

「まだまだ、たくさん」



きっと何のかんの柔らかく抵抗しながらも、結局はやってくれるんだろうなあ、美音。
血圧急上昇で死ぬかもしれない、と呟く美音へ、親父の部屋に救命キットが置いてある、と告げた。