クラシック




食器棚へずらりと並んだ茶器類を見て、美音は うわ、と小さく呟いたまましばし立ち尽くしている。



「早く選べよ、美音。
どれで飲んだって味 変わんねえだろ」

「…奏成くん…なんか残念…」



振り向きざま綺麗な眉をハの時に下げ、さも勿体ないと言いたげな視線を送ってくる美音に笑いが漏れる。
いつまでも眺めてないで。
もう、お湯沸いたんだけど。



「んー、美音にはこれ」

「わ」



よほどガラス越しの皿やカップは美音の心を掴んだらしい。
動かない美音の後ろに立ち抱きしめるように腕を回すと、美音の目の前で左右に戸を開けた。



「ロイヤルコペンハーゲン。
“プリンセス”」



コレクション、なのかどうか知らないが。
陶磁器好きのお袋は、しょっちゅうあれやこれやと増やしていく。
良いものだからこそ日常的に使いたいとかなんとか。
でも特にお気に入りのヤツは2組買って自分の部屋へご丁寧に飾ってるくらいだ。
当然、それにまつわる薀蓄は嫌と言うほど聞かされる。



「美音に、ぴったり」

「うわー…」



俺には似合わねえけど。
ま、いっか。
お揃いで飲んでやろう。
必要以上に美音にくっついて肩越しに2脚、棚から取り出した。



「奏成くん…王子様だ」

「知ってる」



ふ、と噴き出しながら美音は沸騰したお湯をティーポットへ注ぎ温める。
手伝って、とは言ったものの何を、と指さずとも美音は俺の行動を先読みするかのようにふわふわと動いていく。
美音も紅茶が好きだからなのか。
それとも、俺を、好きだからなのか。



「茶葉もすごい…」

「これにしよう」



お袋が買ってきたばかりの新しい茶葉。
未開封の缶を片手に、俺は姉貴が隠し置いているとっておきの洋菓子を探し当てた。



「美音、トレー持って俺の部屋へゴー」

「…え。どうして?」



そりゃね、今日は誰もいないから。
リビングでも良いか、と思わなくもないが。
でも俺の恋路へちょっかいを出したくてウズウズしてそうな連中がうじゃうじゃ居るからさ。
いつ何時、邪魔が入るか分からない。
そんなんで気まずい想いとかしたくねんだよな。



「あのな?
今日は恥ずかしいことどんどんしてく、っつったろ?」

「私が、でしょう?さっきみたいに。
奏成くんも恥ずかしいの?」



恥ずかしい、というよりも。
緩みすぎて気色悪いと豪語されそうな自分自身を家族に見られるのが嫌かな。

ほらな、こんな風に答えてる一語ごとに、次は何にしようかと。
一手を考える顔に締まりがないのは分かってる。



「えー…じゃあ、止めればいいのに」

「ふ ざ け ん な!
その“じゃあ”も間違ってんだろ、使い方!」



合ってると思うよ?

言いながらトレーを丁寧に運ぶ美音を見つめて、膝枕してくれ、っつったらどうするんだろうかと妄想した。