私はギターをしまうと、立ち上がった。
そして、もう彼の事は気にしない。
そう、決めた。
帰りの電車の中。
イヤフォンから流れるのは、流行りのJ-pop。
彼の音楽なんかじゃない。
あれは通り雨の様なもので、微かに私を濡らしただけだ。
それはもう過ぎてしまったし、私も渇いてしまったのだ。
だから、もう。
気にすることはない。
その翌日も、その次の日も、駅前で歌ったけど彼は現れなかった。
がっかりなんてモノはしなかった。
だって、わかってた事じゃないか。
成果を得られる事なく、自己満足の為に歌い終えた私はギターを持って立ち上がる。
帰ろうか、と踵を返したその時。
私の背中に声がかかった。



