ギターを手にした私は、ステージ真ん中に用意されている椅子に座る。
本当にこれが最後の曲か。
はあっと小さく息をつく。
スタンドマイクに向かって、私は口を開いた。
「この曲は凄く大事な一曲なので……、心に焼き付けてくれると嬉しいです」
会場中が静かになって、皆が私を見守る。
やっぱりケーはそこにいない。
それでも、ケーの為に私は歌うから。
「聞いてください。名前も知らない君へ」
そう言ってから、弦を弾く。
ギターの優しい音楽が会場に響き渡った。
私は全ての想いや、感情を歌に乗せた。
不器用でも、ぎこちなくても、うまくなくたっていいんだ。
私の今の全て。
数分だったけど、私は会場と一体化したような気がした。
歌い終えた私は、ニッコリと笑顔を見せると立ち上がりぺこりと頭を下げた。
少しの静寂の後に、どっと歓声があがる。
私がステージからいなくなるまで、その歓声や拍手は鳴り止まなかった。



