人目に付かない路地の裏の裏。そこにはとあるBARがある...

まるで、おとぎ話に出てくる魔女の家のような不思議な雰囲気を放つ、その店にはどんな依頼も受けてくれる

“魔女”が居るというウワサがあるが、この迷路のような路地でこの店を見つけるのは、なかなかに難しい。

しかし、貴方が強く願いその想いが本当ならばきっと、その店にたどり着ける。 かも知れない...





 ―――カランカラン――――――

中世ヨーロッパのような趣のある扉を開けると、中はすべてアンテイークで揃えられている。

間接照明が、ぼんやりと店内を照らしていた。美しくもその店内は何とも言えない不気味さが漂っていた。

カウンターには沢山のお酒の瓶が並んでいる。その奥に丁寧にグラスを磨く体格のいい一人のバーテンダーと、カ

ウンターに座る女性が居る。バーテンダーはこちらを鋭い目で見たが、すぐグラスに目を戻した。

   「 いらっしゃいませ... 」

バーテンダーの声でこちらに気づいたのかカウンターに座る女性が二ヤリと笑ってこちらを見た。

   「 アラ?お一人なのかしら?ワタシで良ければ付き合うわよ♥ 」 

すらっとした体形で、肌が色白の美しい紅い髪色をした女性だ。黒のロングドレスを着ているところからすると

どうやら、この店の“ママ”と呼ばれる人物で“魔女”と呼ばれる人たちの中の一人だとすぐに理解した。

今夜この店に訪れた男は魔女に、いざなわれるまま戸惑いつつもカウンターの席に腰を下ろした。

席に座ると、注文などしていないのにカクテルがテーブルにそっと置かれた。それに驚いていると魔女が

   「 これは、ワタシからのプレゼント。今日の出会いを祝して乾杯しましょ♫ 」

男は、テーブルに置かれたカクテルを手に取り魔女と乾杯をした。一口飲むと、グレープフルーツの爽やかな酸

味と、ほんのりとした甘みが広がりグラスの縁に付いている食塩のしょっぱさが口の中で絶妙なハーモニーの奏で

ていた。男は驚きバーテンダーの腕の巧さを称賛したが、バーテンダーは軽く会釈を返すだけだった。

   「 美味しいでしょ?熊ちゃんは此処のナンバーワンのバーテンダーなのよ♥ 」

魔女は熊ちゃんという愛称のバーテンダーの方を見て微笑んでいた。熊ちゃんも、魔女に褒められると嬉しい

様だ。男が褒めた時は見向きもしなかったが、今は恥ずかしそうに頬を赤らめている。

 
     ――― ガチャ ――――――

突然カウンター奥の扉が開き3人の男が入ってきた。

   「 センパ~イ!遅れました~~! 」

   「 熊ー!ケーキ買ってきたよ! 」 

   「 ママ、すみません。小鳥遊がコンビニ寄るって聞かなくて・・・。 」   

   「 あー!十七夜ひどい~。自分だってケーキ食べたいって言ったくせにっ! 」

入ってきた3人はバーテンダーの熊ちゃんと同い年であろう2人と後輩のようだ。魔女は、みんなが話している

のを愉快そうに聞いて微笑んでいる。客の男もこの店の雰囲気に慣れてきた様で、その様子を見て男も笑っていた

そして、魔女がさて、と言ったとたん周りが静かになった。男は少々驚いたようで口が半開きになってしまった。
 
   「 貴方叶えて欲しい事があるから此処に来たのでしょう?お話聞かせて頂けるかしら? 
    
     それとも、ただただ此処に迷い込んでしまったのかしら?そんな訳ないわね~

     依頼が無ければこのBARにはたどり着けず、通り魔に殺されてしまうもの♥ 」

魔女は男に頬笑みかけた。その笑みに男は何とも言えない恐怖感を覚えた。



そして、男は自分を 斎藤 義明(さいとう よしあき) と名乗り、BARにたどり着いた経緯を話し始めた。