すくっと立ち上がってとてとて緑君に近付く。
 その腕、…の袖…の先の方をツンッと引っ張って至近距離緑君を見上げる。

「…み…緑君なら、怖くないよっ」

「…あのさ、あんまり煽りすぎるのも無しね、つらい」

 私が取った方と反対の手を自分の眼鏡に当てて、項垂れた。
 煽るというのがどういうのかはわからなかったけれど、緑君のドキドキは私に全部伝染してきた。

 あの時の言葉をもう一度、緑君に。

「あ、あの時の、緋色の、……緑君ならいいのになって、思ったよ。み…緑君と、キスしたいなって、思ってたよ。……思ってたよ…っ」

 
 顔を上げた緑君が眼鏡を外してシャツの胸ポケットに入れた。
 その姿にドキドキを忘れて思わず食い入るように見つめた。

「…久しぶりに、見た、気がする」

 眼鏡を掛けていない緑君。
 でもこんなに近くで見るのは初めてで。

「…どっちが好き?眼鏡掛けてるのと」

 聞く緑君の手が私の頬を撫でる。
 心地よさに目を細めて笑む。

「ど…どっちも、…全部」

 微か緑君の顔が迫る気配に緊張しながら目を閉じる。

「その答えずるい。もう知らない」




 柔らかな日差しがセントポーリアの白を包み込む。
 緋色にも咲いたよって教えてあげなきゃ。

 セントポーリアがくれる小さな愛。


 顔を離した緑君が、照れて笑って。
 そのまま私を抱きしめた。


 12月の、よく晴れた日。




FIN