金曜日、緋色と会ってから緑君からはぱたりと連絡が来なくなった。
 今までずっと来ていたものがなくなるのはものすごい喪失感だったけれど、考えてみれば緋色と私が仲直りすれば、緑君からの連絡はなくなって当然のものだったと思った。

 心がぎしぎしと音を立てて私の喉を圧迫させる。

 どっちの方が、良かったのかな。
 緋色と仲直りしなければ、緑君はずっとずっと私とたくさん、お話をしてくれていたんだろう。でも、緋色と仲直りしなければ、緑君はずっとずっと私を心配し続けたんだろう。

「それは、俺も思ってたさ。俺と話さない方がセレンは幸せなままかもしれんと、本当はもう平気なのに緑にダメな素振りを見せた事もあったさね」

 ファミレス向かい側、パスタをくるくると器用に巻きながら緋色が言った。

 今日は約束の日曜日、やっぱり一緒にご飯を食べる事になって、近くのファミレスに二人で入った。

 緋色に全部を話したわけではないけれど、緑君からずっと来てたラインが来なくなった、という部分だけを今伝えたところだった。

「もう、とっくに大丈夫だったの…?緑君から、緋色はまだ落ち込んでるから、みたいな事、何回か言われたよ」

 私は完全にハンバーグを切る手を止めて会話をしていた。

「俺自分で言ったっけ、まだダメだからセレンとは会えないって。そう言えば、緑はセレンにずっとラインするっけ、そのままそれ続けさせればいいかなってちょっと思ってたんさ」

 緋色の口にミートソースのパスタが吸い込まれて行った。
 あんな状況下でそれでも緋色は、私が喜ぶであろう緑君のラインを継続させてくれていたんだと思った。
 私はそんな事考えている余裕、ひとつもなかったのに。

「し、心配したんだよっ。なかなか、会わせてもらえないし、ずっとぼんやりしてるって言われたし、目を離したら喧嘩しに行きそうって、言われたしっ」

「ああ、それは嘘じゃないさね。緑の目を盗んで喧嘩しに行こうとしてたっけ、4回ぐらいバレて緑に送還されたさ。無駄に勘がいいさねあいつは」

「何それ!?ダメだよ!?そんなの聞いてなかったよ!?」

「…ほう。緑も、それ言ったらセレンが心配するってわかったてたんさね。黙っててくれるなんてどうにも優しい奴さね」

 緋色が楽しそうにそう言うから。

「何で笑うの!!何してるのもー!!」

 私一人でフォークをナイフを持ってじたじたと席で暴れた。
 穏やかな、日曜日のお昼。

 この後、それはどこまで続くのか。

 心流れる不穏な冷たい空気に、気付かないふりをしながら。
 私はぱくぱくとハンバーグを食べながら、楽しそうに笑う緋色のミートソースにまで手を伸ばして口一杯にもぐもぐと頬張ったのだった。