それから一週間以上が過ぎた。
 もう10月に入って衣替えの期間。でもまだたまに暑い日もあって、10月一杯はブレザーを着ていても着ていなくてもいい期間とされていた。

 ふと、登校すべく部屋を出ようとした私は、クローゼットにかかる黒に手を伸ばした。

 緋色の学ランは、私が持っている。

 衣替えの前に、緑君に返してもらおうかなって思ったけれど、これは自分の手で緋色に渡したかった。でも、まだ緑君から、緋色が落ち着いたよっていう連絡はもらえていなくて、この学ランもどうやって返したらいいのかわからなかった。
 でも、それでも絶対に自分で渡したかった。

 緋色と私をつないでいるものは今、この学ランしかなかった。

「緋色…」

 緑君は毎日、ほとんどの休み時間のたびに私に緋色の様子を送ってくれた。それはほとんどが楽しい物ばかりだったけれど、時折、緋色が悲しそうにしているとか、窓の外ばかり見ているとか、ぼんやりとした連絡もあった。
 まだ緋色は、不安定な状態だったのだろう。

 でも。

 ぐっと手に力を入れて学ランを手に取った。
 反対の手、スマホをいじって、緑君にメッセージを送る。

 だって今日は、冷えるから。

『緑君、おはよう。あの、私、緋色の学ラン持ってて、衣替えだから、渡したいんだけれど。…どうしても自分で、渡したくて。まだ、会わない方が、いいのかな?』

 それを送って。
 でも返信が来るのがなんとなく怖かったからそのまま画面を閉じて、学校へ向かった。