クローゼットから適当に服を選んで渡して、私だけリビングに戻って来た。
 けれど不安で寝室のドアの前で中の音に耳を立てていた。

 しばらくすればドアは開き、慌てて覗き込むと緋色が、

「顔にも血付いてたっけ、これは俺の血さね。いや、もう誰の血でもいいっけ、洗ってくるさ」

 言いながら私の頭をぽんぽんと撫で、でもやはり歩けていない様子に隣りに沿い、洗面台まで連れて行った。


 気付けばソファにも血はあちこちに付いていて。
 私のYシャツもあちこちが赤く染まっていた。

 でもそんな事色々が全部どうでもよくなるほどに。

「い、…痛い?」

 緋色が切ったと言っていた腕の傷に包帯を巻きつける。こんなの一度もやった事は無いし、不器用な私の両手でやるよりも、器用な緋色の片手の方が綺麗に出来るんじゃないかと思ってしまう。

「いや、見た目ほど痛くはないんさ」

 そういう緋色を信じて、少しでも形が崩れないように強めに包帯を巻いた。


 全部が終わって、ソファに座った緋色へ、私は床から見上げて問いかける。

「…こんなに、酷いの初めて見て、あの…何かあったの?」

 聞けば緋色は眉間に皺を寄せて溜息を付いた。
 私から外された視線は床を射抜くように睨みつけた。

「イライラ…してる…?」

 だったら、今話さなくてもいいよ、という意味でそう言ったものの、緋色がギリリと奥歯を噛み締めたのが見て取れた。

「あ、ご、ごめん、あの、落ち着いてからでもいいの、ごめんね、今聞いてごめんね」

 言う私の言葉なんてきっとひとつも届いていないように。
 緋色は重い口を開いた。