沼田は、半ばあきれながら、萩を見上げていた。

沼田のようなやくざ者を、ましてやタカヤにコカインの売人をさせていた人間を、本気で心配している。

これほどお人好しでなければ、縁もゆかりもないタカヤのために、あれほど真剣になってくれるはずもない。


こんな人間も、いるんだ。


何の見返りもないことに、他人のためにこんなに真剣になれる人間が。

今まで、沼田の周りには、自分の欲望のために他人を蹴落とすような人間しかいなかった。

人のために尽くす。
そんな人間がいるとしたら、おとぎ話か大馬鹿者だと思っていた。

萩のことを、大馬鹿者とは、思えなくなっていた。

こんな生き方を、選ぶこともできたのかもしれない。

……今からでも。