「ヌマタ、さんだぁ」


タカヤが、荒れた唇に、笑みを浮かべる。
沼田にしがみついてくる、小さく震え続けている身体。
タカヤの体格に負けて、沼田は尻もちをついた。


「おい、離せ、タカヤ」
「やだよぉ。捨てないで。オレのこと、捨てないでよ」
「ああ?なに言ってんだ、てめえ」
「もっと稼いでくるから。言うこと聞くから。だから、俺を、捨てないで」


タカヤが、顔を上げる。
こんなに透明な、殺される寸前の小動物のような、悲しみと怯えだけをたたえたまなざしを、見たことがない。


「おいタカヤ、おめえ、なんか勘違いしてねぇか?俺は別に、おまえを捨てたりしてねぇぞ」


むしろ、反対だ。
捨てるつもりなら、くたばるまで放っておけばいい。
あのままコカインを与え続けていれば、半年もすればあの世だった。
売人として足がつく前に、いい時期に厄介払いができたというものだ。


それをしなかったのは。
あの医者にタカヤを預けたのは。


こいつの未来を、見たかったから。