向日葵の風

~五年前~

「何やってんのよ‥。」
「しょうがないよー。急にピアノが倒れて来たんだから」

小児病棟に入院することになってしまった私を見て、彼女はコロコロと笑った。

「そこまで笑わなくたっていいじゃん。"想ちゃん"」
「だって、あーちゃん面白すぎ」

そういって、また想ちゃんはコロコロと笑い出す。想ちゃんは私の友達。来年は進学校に受験するらしい。

「これじゃあ、バイオリンの練習が出来やしないよ」
「こんなときにも音楽ぅ?尊敬するわ、キャハハ~」

そういって再び笑い出す。想ちゃんはとびきりの美少女なのに笑い出すと止まらない。

「アリアちゃん、久しぶり」
「優君っ!!」

優君は想ちゃんのお兄さん。とはいえ、双子だからそんなに違って見えない。

「骨折したんだって?大丈夫?」
「すぐ治らないと困るよー」

優君はとても優しい。初めて会ったときはびっくりした。初めてのはずなのに、"久しぶり"って言われたんだもん。‥未だにその理由は分からないんだけどね。

「アリアちゃんは覚えてる?初めて会ったときの事」
「ううん。」
「あれは晴れた日だったんだよ。海で溺れた僕を助けてくれたんだ。代わりにアリアちゃんが溺れちゃったんだけどね」

ようやく分かった。私に優君の記憶がないのは、あの時溺れて無くしちゃったんだ、"優君の記憶だけ"を。

~現在~

「‥そんなことがあったんだ」
「うん。溺れた優君を助けようとして、代わりに私が溺れた。それで、私には優君の記憶がなかった。」
「アリア、それって大変かも」

希海が真面目に言った。え?私は元気だよ?

「アリア、今の話、本当?」

後ろから声がした。

「‥想ちゃん」
「‥話す気になったの。知らないままだったらアリアがかわいそう。」

想ちゃんは深呼吸して、悲しそうに顔を歪めて言った。それは、そう簡単に信じられることではなかった。

「優の余命、明日までなの。」