だけど、痛みがくる前に手首を引っ張られ、後頭部を力強く引き寄せられた。 いつの日かと同じシトラスの匂いが鼻を擽る。 「…あっぶねーな。大丈夫かよ? 」 「……っ、うん。はい、大丈夫です」 真上から声が聞こえ、そこで私が抱きついたんだと気付き、皐月の胸板を押しながら離れる。 事故とはいえ、こんな人混みの中で皐月に抱きつくなんて恥ずかし過ぎる。 「相変わらずどんくさいんだな」 フッと昔のことを思い出したのか、懐かしそうに柔らかく笑う皐月。