「なあにワシは全然悲しくないわい」

おじいちゃんは続ける。

「長年連れ添って来た妻に先逝かれてしまってな。娘夫婦も遠くの町に住んでいてな。そんな淋しさの中ワシはいつ死んでも構わないと思ったのじゃよ」

誰も口を挟まない。みんな黙って おじいちゃんの話を聞いている。

「そんな淋しさの中、ワシは体調を崩してしまってな。それがきっかけでどんどん体が衰弱していってしまったのじゃ」

歳を取ると、症状の軽い病気でも重い症状になると聞いたことがある。

「そんな中…ワシはそこの犬…ラブちゃんと言ったかのう?そのラブちゃんと話してるのが唯一の楽しみになったのじゃ」

「そう、なんですか……」

百合菜ちゃんはハンカチで目を覆ってそう呟いた。

「このラブちゃんはお嬢ちゃんの犬だろう?それならお返しするわい」

「でも…!」

百合菜ちゃんの気持ちは良く分かる。言ってみれば、今 おじいちゃんの生き甲斐はラブちゃんなのだ。

そのラブちゃんまでもが
離れてしまうと……。

「そのかわりお願いがあるんじゃが…」

「何でしょうか?」

「時々でいいから…その犬を連れて遊びに来てくれないかの?」

「勿論です……!」

皆は口を揃えて頷いた。