「百合菜ちゃん、昨日俺に電話くれた?」

気を取り直して俺は、百合菜ちゃんに昨日の電話のことを尋ねた。

「……うん。あのね、私が一ヶ月前に言おうとしてやめた言葉、覚えてる?」

覚えてるも何も、あんな気になる途切れ方をしたら忘れられるはずがない。俺は頷いた。

「自分でも分からないけど、翔君になら言ってもいいのかなって思ったんだ。聞いてくれる?」

「もちろん!」

「ありがとう。実はね……」

俺はゴクリと唾を飲み込み、次の言葉を待った。

「ラブちゃんが迷子になっちゃって…」

………。

ら…らぶちゃん?

俺は記憶の糸を辿っていく。

思い出した。ラブちゃんとは百合菜ちゃん家の犬だ。

初めて百合菜ちゃんと出会ったあの雨の日に、百合菜ちゃんを俺は送って行った。その時、俺にしつこくかまってきたのが、ラブちゃんだった。

『懐かれたんだよ!珍しいんだよ?ラブちゃんが家族以外にじゃれるの』

しかし、これはもはや、じゃれるというレベルではなかった。俺は傘を放り出して地面に倒れた。

『あ、浅香さん!助けて!』

『あはは、ラブ。おいで?』

そして百合菜ちゃんは優しくラブちゃんを抱きしめたのを覚えている。

その ラブちゃんがいなくなった…?