「あなた!もう仕事に行く時間でしょ?何してるのっ?」

百合菜の金切り声が聞こえてくる。

「ちょっと待てよ。今、手紙書いてるんだから」

「なになにお父さん?もしかしてラブレター?」

「おー紫音!すごいなぁ大正解だよ!」

そう言った途端、百合菜の強烈なローキックが左足を襲った。

二十年前の体育祭をつい思い出してしまう。

「妻の目の前で堂々と浮気ですか?」

「違うよ……紫音に手紙書いてるんだよ」

そう俺が言うと、百合菜はいかにも納得したとばかりに頷く。

「紫音って…私に?」

10歳になったばかりの紫音が呟く。

「はははっ。違うよ。お前の…名付け親」

「…私の?」

「そうよ。あの人は凄くいい人だった。綺麗で優しくて…強くて…」

百合菜は昔を懐かしむ目で話す。

「よしっ出来た!」

俺は書いたばかりの手紙を紙飛行機にして飛ばした。

「お父さん!!いいの?せっかく書いた手紙だったのに!!」

紫音は俺が空に放った紙飛行機を指差しながら言う。

「……こうしなきゃ届かないんだよ」

「え…?」

「じゃあ仕事行ってくるから!紫音も学校頑張れよ!!」

「うん…お父さんも浮気しちゃ駄目だよ?」

「百合菜も…“空”の小守り頼むな」

「はい」

「それじゃ……行ってきます」

「行ってらっしゃい!」

俺は玄関から外に出る。
空には俺が出した手紙がいつまでも…

いつまでも…

宙を舞っていた。

From..完