『確かに最近は調子がいいし、ご飯も食べられてます。』



『うん。』



『....』



『それで?』



それでって何?



他に何かあるの?正解がわからない。







『調子もいいし。ご飯も食べられる。それなら次に頑張ることは何?』



『治療.....ですか?』



これを言って欲しかったのか。完璧に崖っぷちの気がする。



『それなら、治療頑張らなきゃいけないよね。』



やっぱりイヤイヤ言ってるのは許されないか。



そう....そうなんだ




..........。




わかってる。





でも、わざと。





治療から逃げる自分を認めてしまっている部分がある。




そうすれば、山瀬先生が怒ってくれるから。




怖いけど、そんなことでしか、そばにいてくれない気がするから。



やっぱり患者と医師の関係からは抜け出せないと、不安の渦が心をグルグルする。



いつのまにか涙が真っ白な布団の上に、存在感もなく溜まっていく。



頬をつたう暇もなく、手の上に水たまりを作る。



呼吸が苦しくて、胸元をギュッと掴んだ。



もう自分に息をさせないくらい。



強く。


強く。



心臓の音だけが、頭に響き、その鼓動はどんどん早くなる。



『ゆうか。


プルルルルプルルルルッ』



山瀬先生の呼びかけを遮るように、同時に二人の院内電話が鳴る。



そして、自分の鼓動よりもその音だけが頭に響き、何度もリピートした。



声を押し殺して。



広瀬先生と山瀬先生の姿はもうない。



手足が痺れて、体が大きく揺れる。



この苦しみから、恐怖から逃げたくて、首を爪を立てて引っ掻いた。



何度も。何度も。