『宮本さん。私新しいこと始めようと思うの。』


『何を始めるの?』


『勉強!』


『何か目標できたの?』


『はい。医者になります!』


宮本さんはそれを聞いて驚いたようだった。


『そうなの?山瀬先生に憧れて?』


まさか、意地悪大魔王カッコつき"医者"みたいな人に憧れるわけがない。


『いいえ。ありえません。この人です。』


本の表紙を見せる。


『"救命界のパイオニア" 長瀬吉成 手術困難患者を救う奇跡のドクター。



ほう、なんかすごそうね。あったこともないわ。』


『アメリカのプラットン大学の医師です。

この本読んで、憧れちゃいました。』


『目標ができてよかったね。生き生きしてるよ。』


嬉しそうに笑う。


私もつられて笑顔になる。


『医者は憧れでなれるもんじゃない。』


この声は。


『山瀬魔王。』


はっとして口をおさえる。


『あ?誰が魔王だって?』


『何にも言ってない。』


間違いなくけなされるんだろう。


あなたには無理って。


過去にも言われたことがある。


友達が始めたテニスを、私もやりたいと言った時。

"あなたには無理よ"


あっけなく諦めさせられた。


『聞いてるの?』


『え!なに!』


呆れた顔で見ている。


『せっかく許してあげたのに。』


『本当に?けなさないの?』


『なんで人の夢をけなさなきゃいけない?
今自分がどんな位置に、どんな環境にいようと、達成できる可能性はある。志を立てるのに遅いことはない。今の現状になにもかも諦める人生ほどつまらないものはない。現実をふまえてとか言ってる人ほど、現実から逃れられないまま、人生が終わるんだ。心の底から達成したいと思えば、必ず前に進んでいけるよ。』


先生の長ゼリフ。最長かも。


宮本さんもボーっと山瀬先生の話を聞いている。


『おせっかいだった?』


少し顔を赤らめて言う先生に、慌てて首を振る。


『嬉しいの。ゆうかが目標を見つけてくれたこと。本気で頑張ってほしいの。達成できるまで、応援し続けるよ。』


心強い。先生の言葉。


山瀬先生は人として尊敬できる。


実は目標のひとり。


恥ずかしくて言えないけど。