コンコンッ


元の部屋に戻った次の日。


回診のすぐあとに広瀬先生がやってきた。


また、怒られるのかと思うと、視線が下に行ってしまう。


『ゆうかちゃん。おはよう。』


『おはようございます。』


明るく振る舞う。


『この前は誤解を生んでしまったようで、ごめんね。ゆうかちゃん怖がらせちゃったかな。』


誤解?何の誤解だろう。


困惑してしまった。


余計なことは言わないことにする。


『大丈夫ですよ。』


『よかった。泣かせちゃったけど、そのまま外してしまって、無責任なことをしてしまいました。』


『いえ、たまに泣きたくなることもありますよ。すぐに収まるので。』



あの日の息苦しさは思い出したくない。



『検査頑張ったて聞いたよ。すごいじゃん。』


遠い昔のことに感じる。


『広瀬先生に怒られて、思い直しました。』


『ほんとに?それはよかったよ。』



できるだけ笑顔を見せる。




『それは嘘だな。』


突然山瀬先生が会話に入ってくる。


広瀬先生が不思議そうにそれを見ている。



『隠し事まだあるんでしょ。』



『なんのこと?』



とぼけてみせる。



『広瀬先生外してもらえますか?』



わざわざ来てくれたのに。



『座って。』



ベッドを叩く。



そして広瀬先生が出て行くと同時に、山瀬先生が私のパジャマに手をかける。



『ちょっと、なにするの?さっき診察したじゃん。』



『これは何?』



私の胸元を指差して言う。


自分でも気付かなかった。


発作が出るたび、強く握りしめていたせいで、色が変わっていた。赤黒くなっている。


『打撲にしてはまばらだし。ただぶつけたわけじゃないね。あと首、水ぶくれは何でできたの?』


『えっと、それは...』



『先生が診た一回では、こうなるとは思えない。』



言い訳を言う隙がない。


『あと、先生いない間ご飯は?』



『食べてたよ、ちゃんと。』



自信なさげに言った。


『半分しか食べないで、ちゃんと食べたっていえる?


.....




そういう風に言ってたっけ?』


『でも....食べ......た......か』



『なに?聞こえない。



.......




食べてたらひどい貧血にはならない。

食べられないなら看護師やその日の担当医に言わないと。

いつも誰かが見れるわけじゃないでしょ。

だから、話してないこと全て報告して。


今ここで。』


色んなことを言われた。


もうバレてる。


でも、明かせない。絶対に。


自分が選んでそうしてたから。


もう今更話せない。


強く唇を噛む。


『ゆうか。責めたいわけじゃないの。わかるよね。どうしてこうなったのか教えてほしい。



それはゆうかにしかできないよ。』


だめ。優しさに心を揺らしてはいけない。