結局、ヤンキーは、「嫁が待ってるんで」と言い、さっき慎平が来た道を肩で風を切りながら帰って行った。




それを見送るなり、慎平は、駅の構内に戻り、キヨスクのような土産屋に入り、ライターと煙草、ついでにお茶を買って、待合室に座った。外は、寒かったらしく、暖房が身体を徐々に温めていく。もう、白い息は出ない。




待合室にテレビはなく、慎平のように座っている人も2、3人いたが、イヤホンで音楽を聴いたり、新聞を読んだり各々、自分の世界に入り込んでいて、慎平もポッケからイヤホンを取り出し、音楽を聴いた。




慎平は、洋楽は聴かない。邦楽が好きで、中でもポルノグラフィティが大好きだった。どれくらい好きかというと、ポルノグラフィティにちょっとでも近づきたいと考え、高校受験で、ポルノグラフィティの二人の出身校である、因島にある高校に受験しようとしたほどだ。




偏差値的にも、まあまあで、慎平の当時の学力でも行けないことはなかったのだが、母親から「因島までフェリーで通うん?」と言われ、慎平は、小学校の遠足でフェリーに乗って、酔ってしまったことを思い出した。結局、断念して、ただ、広島に行くことは、譲れず、東広島にある、偏差値のそこそこ高い高校に入れた。




イヤホンの曲は、ポルノグラフィティの「メジャー」からShiggy Jr.の「Saturday night to Sunday morning」に変わったころ、後ろからポンっと背中を叩くような、押されるようなそういうポンッが慎平の背中に伝わった。




慎平が振り返ると、そこには、口をパクパクさせて、何かを言う、懐かしく、且つ胸がキュッと締め付けられるような、そんな気持ちにさせる笑顔があった。




慎平は、イヤホンを外した。




「お待たせ。遅くなってごめんね? 道が混んどって……」




そう言って、手を合わせて、腰を屈める、セミロングの黒髪が似合うこの女性、名前を松山 京子(まつやま きょうこ)という。




慎平の中学の同級生である。