「なら、その地域全部回ってみる?」




そうサラッと言った京子の言葉に、慎平は、コーヒーを飲んでいたらまた噴き出していたであろう。




「おまっ、何日かかると思っとるん?」




「3日くらいやろ? 慎平、予定大丈夫?」




スケジュール張を開いて、「ここも大丈夫、ここも大丈夫」と言っている京子に、慎平は、それもいいかと思った。そして、このままこの水色のタントを交互に運転しながら、旅に出るのもいいかと思った。慎平には、それくらいの時間も暇もある。お金は、奨学金で何とかやっていけるはずだ。ダメになったら、二人で日雇いのバイトでもすればいい。そんなことを考えていた。




しかし、これを京子に伝えると、どんな反応をするだろうか。京子のことだから、「いいね! やろやろ!」と乗ってはくれると思う。しかし、本気になんて、しないだろう。常識的に考えて、知らない仲じゃないとはいえ、好きでもない男とそんな賭けみたいなことをできるわけがない。




でも、もし、京子にその気があるなら____慎平の心は、完全にそれにシフトしていた。




「まあでも、慎平には、クリスマスイブの予定とかあるやろうし、やめとこっか」




スケジュール張をパタッと閉じた京子の言葉に、慎平は、確信した。京子もクリスマスイブの予定がない。つまり、こうして旅まではいかないにしても、一緒に数日は過ごせるはずだ。




「行くか?」




「え? 大丈夫なん!?」




「クリスマスイブとか、予定ないし」




「彼女おらんのん?」




「おらんおらん。京子は?」




「おらんおらん」




「そうなんや。なら、予定も大丈夫みたいやし、行く?」




「そうやね、行こう!」




これほど、トントン拍子で予定が決まるとは、思ってもいなかった慎平は、自分の心の中で、どこか、このままいくと京子と付き合えるんじゃないだろうか、その京子とクリスマスイブを楽しく過ごせるんじゃないか、そういう映像まで頭の中に鮮明にできていた。