スマホが、ブーブーと鳴り、慎平は、座席を立った。里中 康太(さとなか こうた)からの電話だった。




里中とは、慎平の中学のクラスメイトにして、親友だった。まあ、親友といっても、おはようからおやすみまで連絡を取ることもなければ、誕生日におめでとうメールをすることもないくらい疎遠になっている。そもそも里中の誕生日を慎平は知らない。




慎平は、席を立って、さっきみた公衆電話が入っている個室に入って、電話に出た。




「よお、久しぶり」




やはり、里中である。まあ、電話帳に登録した、「里中」と表示されているのだから、里中が出てきて当たり前といえば、当たり前なのだが、こうして声を聞いて、初めて確信するほど、慎平は、電話の仕組みをイマイチ信用できなかった。きっとその理由は、一昨昨日に同級生の遠山 美咲(とおやま みさき)から聞いた、間違い電話が原因だろう。




なんでも、美咲の話によると、慎平に電話をかけたのに、聞こえてきたのは、若い女性の声だったという。最初、「慎ちゃんの彼女だろうか」と疑ったらしいが、「幸田慎平くんの電話ですよね?」と尋ねたところで、間違い電話だと気づき、電話を切ったらしい。




調べたところ、中四桁のうち、「6」が「3」と間違って美咲が登録していたことが原因で、たった一つの数字が違うだけで、まったく知らない赤の他人が電話に出るものかと、驚いたのと同時に、そのまったく知らない赤の他人からすると、まったく知らない赤の他人である美咲からまったく知らない赤の他人である慎平の名前を聞かされたことのほうが、驚いたのではないだろうかと、いや、そもそも、まったく知らない赤の他人に自分のフルネームをばらされたことが迷惑だと慎平は思った。




そんなこともあり、慎平は、里中に開口一番、「本当に里中か?」と聞いてみた。




「お前、親友の連絡先も登録してないん?」




誤解をされてしまった。