「やっぱり、足の速さは健在やね。煙草吸うくせに」




そう言って、助手席で缶コーヒーを両手で持ち、体を縮める京子を他所に、慎平は、車のエンジンをかけようとするが、これがなかなかかからない。




「もう! こう!」




結局、キーを取り上げられてしまい、京子の体が慎平の膝に乗る。まるで、膝枕のような体勢に慎平の胸は高鳴った。




車のエンジンがかかり、慎平の膝に頭を乗せたままの京子が「本当に免許持ってるの?」と慎平の顔を覗き込むようにして言うが、彼は、それどころじゃない。




「はあ、相変わらずガリガリで、堅い膝だね」




元の定位置に戻った京子のその言葉で、慎平の胸の高鳴りは、終息の一途を辿った。




ちょうど、その時、「ハネウマライダー」が流れ、慎平は、あることを思い出していた。




「そういえば、ハネウマってさ、俺らの1個上の先輩の運動会のダンスの曲やったよね」




「あ! そうやったねー、懐かしいね」




「俺らの時の曲って、何やったっけ?」




「あれよ、ほら、えっと……」




京子が鼻歌で歌い、慎平もそれを口ずさめるが、誰の曲で何て言う曲名か思い出せない。




「あ、Superfly! Hi-Five」




「ああ、そうだそうだ」