このまま老婆がみかんを食べているところをジロジロ見ていると、「お一つどう?」なんて勧められそうだったので、慎平は、イヤホンをし、音楽をかけた。最近の若者の電車での過ごし方である。




東西線で大手町までの移動中に、優先席の前で吊革に掴まっていると、東陽町辺りで乗ってきた、男一人、女二人で構成された三人組が慎平の横の吊革に掴まったが、イヤホン越しからも会話が聞こえるくらい、にぎやかだった。何を話しているかまでは、聞き取れなかったが、多分、女二人のうち、スタイルがいい方と男がちょっかいを出し合っていて、それをぽっちゃりとした金髪の女の子が見て笑っているという感じだ。




そして、門前仲町で三人組の前の優先席が一つ空いた。ぽっちゃりとした金髪の女の子は、迷わず優先席に座り、他二人のちょっかいをゲラゲラ笑いながら見ている。慎平挟んで反対側には、風呂敷の老婆と同じか、或るいは、少し上くらいの老婆がいた。それを気にしないところから察するに、この三人組は、都内近郊に住んでいる。




老婆が二つ目のみかんに手をかけた時、電車が動き出した。車両の入り口にあるデジタル時計を見ると、19:10だった。てっきり、電車が遅れているのかと思っていたが、ちょうど今、開いたスマホの時刻表にも、19:10とあった。そこで、慎平は、「遅れていたのではなく、早く着き過ぎていた」ということに気付いた。JRの優秀さは、全国共通らしい。




お世辞にも、都会とは言えない窓外の風景は、真っ暗で慎平の顔と気候違いの服装を映し出すだけだった。窓に結露ができるくらい顔を近づけて、初めて窓外の景色が確認できるが、まるで、録画した映像を流しているだけなんじゃないかと思うくらい、窓外の景色は、田んぼが流れてくるばかりだった。




ずっと見ていると、酔ってしまいそうである。