「でも、まさか慎平も落語見とるとは思わんかったわ」
「俺も。こんな話、出来る奴、他におらんよ」
そう慎平が煙草の火を消したところで、いつの間にか方言でしゃべっていることに気が付いた。上京した時、方言を使っているとなめられると思い、必死に標準語に直していたが、東京は、慎平が思っているよりも、地方から来ている人が多く、未だに方言でしゃべっている大学の友人も少なくない。
ただ、慎平は、それ以上に、この赤い橋での京子との会話に「違和感」を感じる。
「思ったんやけど、こうやって久しぶりに同級生にあったらさ、普通、昔の話とかするもんじゃないんかね?」
「まあ、そうよね。じゃあ、その話する?」
京子は、その「違和感」にも感じていない様子で、慎平は、ひょっとして京子という女は、生まれて一度も「違和感」を感じたことがないんじゃないかとふと思った。
「でも、慎平と一緒に遊んだこと、なかったよね」
京子が言うように、慎平は、京子と一度も遊んだことがない。まあ、そんなこと珍しくない。今では、大学の友人である、美咲からカラオケに誘われても何とも思わないどころか、美咲の家で二人っきりでゲームをしていても、何とも感じないくらい、男女間での友情は、存在すると思っているが、当時はそうではなかった。
休み時間に話をしているだけでも、傍から見ると、「あの二人、付き合っとるんやない?」と噂されるほどで、里中の彼女と塾が一緒で、里中のことで彼女からメールで相談を受けていた時も、里中から「慎平と浮気しとる」と思われていたほどだ。
ちなみに、里中の彼女とは、本当に美咲と同じくらいの男女間での友情の一つにしか、慎平も思っていなかった。



